大震災と原発事故は、ジャーナリズムのおかしさも露わにした。政府の誤った事故情報をタレ流す。そして、菅政権の情報操作に加担までする。まさに、既存メディア全体が、「原発記者クラブ」と化したのだ。そうした中、ついに内部から批判の声が上がった。東京新聞・中日新聞論説副主幹・長谷川幸洋氏の語る「記者クラブ」の歪さは、実に生々しい。上杉隆氏と、内外双方向から記者クラブの宿痾(しゅくあ)を検証する。
* * *
上杉:僕はNYタイムズ時代を除いて外側から記者クラブ批判をしてきましたが、長谷川さんは内側の、しかも中枢にいて記者クラブをもっともよく知っている立場でいながら、ツイッターなどで批判をやり出して驚いています。反響がすごいんじゃないですか?
長谷川:ツイッターはまだ始めたばかりだけど、確かにすごいですね。
上杉:最近だと、朝日新聞の記事を批判してましたね。
長谷川:政治グループ次長の方(鮫島浩氏)が書いた〈菅首相 解散の覚悟はなかった〉ってコラムなんだけど(6月11日付朝刊)、僕は会社の同僚に教えてもらって読んだんですよ。そしたら、〈官邸からは造反を抑えるため、「首相は不信任案が可決されれば解散する意向を固めた」という情報が意図的に流されていた〉とあって、しかも彼が退陣表明の直前に菅首相に電話したら〈決して「解散」という言葉を口にしなかった〉という。官邸の情報操作を批判したように読めた。そこで朝日の過去記事を探したら、6月2日の朝刊一面トップで〈首相、可決なら解散意向〉って見出しで書いていたわけです。
これはどうなってんだと思って、ツイッターでネタにしたの。要するに、官邸の情報操作と知りながら朝日は報じたのか。おまけに後になって「本当は解散する意向がなかったことを自分は知ってたんだぜ」って書いている。だとすれば、朝日は官邸に故意に手を貸し加担したという話になるじゃないか。それは新聞としてはいかがなものか、とツイッターで書いたわけです。そしたら、反響がどどどどどっと来ちゃって。
上杉:まあ、新聞としてはいつものことですね(笑い)。
長谷川:その夜、もういっぺんツイッターに書いたんだけど、朝日の政治部はでかい組織だから、この次長さんは、実は一面の記事について自分では全然タッチしていなかった。でも、こういう報道が流れてしまったことが遺憾であると思って、自分の署名コラムで書いたんだという、こういう解釈もあり得るかなと思ったんです。つまり次長さんは「官邸の情報操作に利用されるのはおかしい」という、自社報道への内部批判をしたんだと。そうだとしたら、それはそれなりに意味はあったかな、ということもコメントしたんです。
上杉:既存メディアではいつものことなんですよ。結局、自分の間違いを内輪の論理で自己弁護、自己防衛して、間違いを犯してないと強弁して無謬性を誇ってみせる。事実を報じるんじゃなくて、報じたものに事実をそうやって修正して合わせていくんですよ。解決策としては、ずっといい続けていますが、すべての記事を署名記事にすればいいんですよ。だって、朝日新聞政治グループっていう人間はいないし、すべての記事は絶対主観を持って書かれるわけだから、堂々と署名で書けばいいんですよね。
そうして紙面で記者個々のお互いに違う意見を戦い合わせればいい。海外のメディアは当然のように全部やってるんですよ。
※週刊ポスト2011年7月1日号