「首相候補」とされる野田佳彦・財務相が国税の査察を受けた企業から献金を受けていたことを、6月11日付の産経、朝日が報じた。
野田氏は今年3月にも、前原誠司氏、蓮舫氏とともに暴力団関連企業に多額のパーティ券を買ってもらっていたことが発覚した。“黒いカネ”に喜んで飛びつく財務相が次期首相などブラックジョークにもほどがあるが、問題はさらに根が深い。
「献金は陣中見舞いとしてもらった。法令違反があったかどうかはわからない」
野田氏は記者会見でそう弁明した。献金していた企業はSE派遣やシステム開発を手掛ける「ソフトウエア興業」(本社・東京都千代田区)。総従業員約3000人の業界大手で、同社や社長は野田氏以外にも仙谷由人・官房副長官、馬淵澄夫・首相補佐官といった政権幹部、さらには自民党の細田博之、中川秀直、二階俊博各氏ら閣僚経験者にも献金していた。
その背景に、菅直人首相が「一に雇用、二に雇用、三に雇用」と叫んで進めてきた雇用政策があるのではないかと指摘されている。
捜査関係者が語る。
「国税の査察を受けた企業のうち検察への告発に至るのは6~7割、残りは修正申告などで終わる。今回は政治案件なので国税の判断が注目される。検察は雇用調整助成金(雇調金)との関連に関心を持っている」
雇調金とは、企業がリストラを実施する際、解雇せずに休業や出向とした場合に国が休業手当の最大75%を助成する制度。休業中に教育訓練を行なえば、大企業で日額4000円、中小企業で同6000円の加算もある。
SEを派遣、出向させるソフトウェア業界は、その恩恵を多く受けている。大手ソフト会社の組合幹部が語る。
「リーマンショック後に企業のシステム投資が激減し、業界は大不況に陥りましたが、民主党政権の雇調金の拡充で救われた。優秀なSEを解雇せずに済むうえ、助成金収入は会社の営業外利益として計上できる。業界団体も説明会を開くなど積極的に助成金の活用を進めてきました」
もちろん業界大手の「ソフトウエア興業」も雇調金を受け取ってきた。
民主党が政権をとったのはSE不況が深刻化した2009年の秋で、鳩山内閣は緊急雇用対策で雇調金の支給対象を「生産量が2年前より10%以上減少した赤字企業」に拡大し、さらに野田氏が財務相、仙谷氏が官房長官、馬淵氏が国交相に就任した菅内閣では、「直近3か月の生産量が3年前より15%以上減少した企業」と、さらに対象を広げた。
前出の捜査関係者がいう。
「同社社長の政界人脈は民主、自民と多岐にわたる。中でも野田氏とは一緒に食事をするなど親しい付き合いがあったようだ」
大手信用調査会社の調べでは、同社の売り上げはリーマンショック前の311億円(2008年3月)から、261億円(2009年3月)、192億円(2010年3月)と大きく落ちており、そのさなかに社長が馬淵氏に献金(2009年)していることを見ても、民主党とのパイプに期待していたことがうかがえる。
となれば、これは助成金の還流という重大問題で、「(査察を受けた企業とは)知らなかった」という弁解で済まされる話ではない。
同社に「野田財務相らに助成金拡充を求めたのか」と尋ねると、「取材にはお答えしないことになっている」(総務部)との回答だった。野田氏からは締め切りまでに回答はなかった。
いくら大メディアが持ち上げたところで、化けの皮はすぐ剥がれる。
※週刊ポスト2011年7月1日号