国や企業の債務を履行する能力、つまり「信用力」を表わしている「格付け」。震災後、矢継ぎ早に日本国債や東京電力を始めとする民間企業が「格下げ」されたり、「格付けの見通しをネガティブ」と位置付けられたりするなどした。“格下げラッシュ”について20年近く米大手格付け会社・ムーディーズに在籍した森田隆大氏が解説する。
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米大手格付け会社のスタンダード&プアーズ(S&P)は、5月30日、国内最大の社債発行企業である東京電力の会社格付けを「BBB」から5段階下の「Bプラス」に引き下げた。これは投資家が社債を購入する際「投機的要素が強い」とみなされる水準である。
格下げの理由は、原発事故で金融機関の債権放棄の実施の可能性が高まっているためとしているが、信用力の高い発行体が格付けに織り込まれていない予測不能のリスクを理由に、このような急激な格下げに見舞われたのは極めて異例だ。
東電だけでなく、震災後は「格下げ」「格付けの見直し」「ネガティブ」などの格付けに関するニュースが相次いだ。掲載したの表はその一部だが、日本国債を含めて「格下げラッシュ」だったことが分かる。
電力業界のアナリストを長く経験した私の元には、東電の信用評価についての問い合わせが相次いでいる。「格付けはどこまで下がるのか」「東電はデフォルトするのか」といった将来を不安視する声が多い。
格付けの影響力は、特に発行体の信用力が大きく変化した時に、無視できない。例えば、昨年から深刻な財政危機が続いているユーロ圏では、ポルトガル、スペイン、ギリシャ、アイルランドなどで国債や大手銀行などの格付けが相次いで引き下げられた。そのことで市場が過敏に反応し、結果的に財政危機がさらに深刻化するという悪循環に陥っている側面があることは否定できない。信用力の将来像を評価する格付けが逆に実体経済に影響を与え、一国の命運を左右するほどの影響力を持つとさえ言える。
だが、その一方で、格付け会社は営利を目的とした民間企業に過ぎない。「いたずらに不安をあおり、リスクを増大させているのではないか」といった批判があるのも、また事実である。
確かに、前出のムーディーズ、S&Pにフィッチ・レーティングスを加えた格付け大手3社は数々のミスを犯している。2001年には破綻直前のエネルギー大手のエンロンに「投資適格」等級の格付けを付与していたし、2007年にはサブプライムローンに上位の格付けを与え、金融パニックを引き起こしたと批判されている。
※SAPIO 2011年6月29日号