東日本大震災を受けてUSTR(米通商代表部)のロナルド・カーク代表は「現時点で(TPPに)日本を駆り立てるのは、人の弱みにつけ込むようなものだ」と述べた。被災した日本を気遣っての発言と受け取られたが、裏返せば菅政権が「第三の開国」と喧伝するTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)がそれだけ日本に不利になることを示唆している。ジャーナリストの東谷暁氏が日米に広がる欺瞞を暴く。
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TPPについては、恐るべき誤解が蔓延している。問題の核心に触れるまえに、ゴキブリのように増殖する誤解を叩き潰さなくてはならない。
まず、東日本大震災が起こったため、TPPは先送りになったという報道からして間違っている。菅政権が先送りしたのは、6月までに閣議決定をすることだけで、TPPそのものを先送りしてしまったわけではない。
大震災が襲ったにもかかわらず、アメリカの高官は陰に陽に圧力をかけてきたし、日本への輸出を狙うTPP参加国は繰り返し日本に参加を促してきた。菅政権もまた、行政刷新会議で着々とTPP受け入れのための準備を進めており、先日のG8では、オバマ大統領にTPP参加決定を早めるという約束すらしてしまったのである。
これまで菅政権や日本の経済マスコミが垂れ流してきたTPP情報もほとんど詐話といってよい。まず、TPPを締結するとコメの開放が中心的問題となるから農業従事者たちが反対している、というのが嘘話なのである。
アメリカはいまでも日本に36万tものカリフォルニア米を何の努力もなしに押し込んでいる。WTO(世界貿易機関)での取り決めで、日本はコメに高関税をかけることの見返りとして、毎年、77万tの「ミニマム・アクセス米」を輸入することを受け入れているのだが、その半分近くを、すでにアメリカ米が占めているのだ。
そもそも、アメリカが作っているコメのうち、日本人の嗜好に合うジャポニカ種は30万tほどにすぎず、そのすべてを日本に押し込んだとしても、日本のコメの消費量は900万tだから、日本のコメが乗っ取られるという試算や報道じたいが、馬鹿げた妄想なのである。
事実、アメリカのUSTR(通商代表部)が毎年発表する『外国貿易障壁報告書』でも、アメリカのコメが加工食品などで表示されていないことに不満を鳴らすものの、コメ輸出増加などにはまったく触れず、「アメリカ政府は、日本政府がWTOにおける輸入量に関する約束を引き続き果たしていくことを期待している」とだけ述べている。
※SAPIO 2011年6月29日号