歌手・クミコさん(56)の新曲『最後の恋~哀しみのソレアード~』が話題だ。詞は、彼女が「世界観に憧れていた」という、ドラマ『セカンドバージン』(NHK)の脚本家・大石静さん(59)。ふたりの出会いや、震災で感じたことなどを語ってもらった。
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クミコ:昨年の私は『INORI~祈り~』など、社会的なテーマを歌うことが多かった。それはもちろん、ありがたいのですが、何かをやり残している感じがして。そんなとき、大石さんが書かれたドラマ『セカンドバージン』を見て、「あ、この世界を歌にしたら、どんなにか共感を呼ぶだろう」と思って、作詞をお願いしたんです。
大石:私は前からクミコさんの歌は聴いていたので、作品の上ではつながっていたんですね。でも、私は、せりふならいくらでも書けるんだけど、作詞というのはほとんど経験がないので、できるかな、と不安でした。
クミコ:だから、「作詞とは考えないで、大石さんの哲学とか人生観とか、思いつくままを書いてください」とお願いしました。大石さんの詞なら、曲に“立体感”が、きっと出るだろうと思って。その通りになりましたね。
――それが『最後の恋』ですね。
大石:当時『セカンドバージン』で不倫は描ききった感があったので(笑い)、詞は不倫じゃない大人の恋を書きたかった。ラブラブだけど、大人だから将来に懐疑的なところもある――そういう愛を、ね。
クミコ:この曲を初披露しようとした日、東日本大震災があって。私はコンサートのために訪れていた宮城・石巻市で地震と津波に遭遇しました。居合わせただけの私ですら、歌なんか歌えるだろうか、しかも恋の歌なんて…という心境になって、しばらく何もできませんでした。
そんななかでも、この歌を練習していくうちに、もしかしたら歌を通して、光に向かって歩いていけるかもしれない、と思うようになった。震災はつらい記憶だし悲劇だけれど、その悲劇をはさんで、歌がより深みを持った、という感じがしているんです。
大石:私はレコーディングの直後に聴き、最近になってライブで聴いて、同じ歌でもこんなに違って聞こえるのか、と驚きましたね。ところで練習って、誰がどう指導するんですか。
クミコ:ひとりよ! ひたすらひとりで歌う地味な作業ですよ(笑い)。嫌になっちゃう日もあれば、感極まって泣き崩れて歌えない日もあるし(苦笑)。そうやって練習しながら、言葉を体になじませていき、失敗しながらも人前で歌っていくと、歌が育って、説得力を持っていくのね。
大石:なるほど。私は『セカンドバージン』以降、“濡れ濡れ”のラブストーリーを書いて、という依頼をたくさんいただきました。でも震災後、ラブストーリーが書ける心境ではなくなってしまったの。浮かんでこないのね。といって、私には瓦礫ひとつ取り除くこともできない。自分にできることはなんだろうと考えたとき、目の前の仕事をやるしかない、と思った。これから復興していく過程で、エンターテインメントが必要とされ、力になるときがきっとあるはずだ、と思って。
クミコ:(頷きながら)その大石さんの言葉に、私も覚悟ができた。それに何度も歌ううち、この曲は恋の歌にとどまらないで、いま不安な気持ちを抱いているすべての日本人に語りかける“いのちの讃歌”なんだ、と気づいたんです。命も家族も、始まりは恋。一緒に生きていきましょう、というメッセージなんだ、と。
※女性セブン2011年6月30日号