東日本大震災で大きな被害に遭った宮城県石巻市のヤマト屋書店あけぼの店で、ある本が売れているという。「アウトドア」コーナーに平積みされているその本とは? ノンフィクション作家の稲泉連氏がレポートする。(敬称略)
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「実はいま、この本がとても売れているんですよ」
ヤマト屋書店あけぼの店店長の津田昌彦はそう言うと、「アウトドア」の棚に積まれた本を一冊手に取った。見ればタイトルには『宮城・福島の海釣り 空から見るベストポイント』とある。
「ほら、こうやって開きますとね……」
そう続けて開いた各ページには航空写真が並べられていた。それにしても鮮やかな航空写真だ。海岸近くに並ぶ家の屋根の形や色が、海の青さや森の深い緑の中にくっきりと映し出されている。同書では宮城県一八六か所、福島県七十八か所の海岸線と離島を空撮することで、漁港・防波堤などの釣りのポイントを実際の航空写真によって紹介している。
「津波で流されてしまった地域の以前の姿が、本当にはっきりと映っているでしょう? いまこの本を手にするお客様で、釣りを目的にしている人はいないと思います。自分が暮らしていた町のことが載っている本を探すうち、『ここに私の家が映っている』とこの本を見つけて購入されるんです」
同書は震災関連の棚に並べられているわけではなく、あくまでも従来通り「アウトドア」コーナーに平積みにされていた。そうしたところに自らも被災者である津田の意思と配慮が感じられるのだった。
※週刊ポスト2011年7月1日号