AKB48「江口愛実」のCG合成キャラという正体が明らかになり、「やっぱり」「どおりで不自然な顔」などと話題沸騰だが、作家で五感生活研究所の山下柚実氏は、この顔こそが、清少納言も認めた1000年を超える日本の伝統美なのだという。以下は、山下氏の解説である。
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「総選挙」で日本中の話題を独占したAKB48 。かと思ったら、今度は、電撃デビューした新人「江口愛実」に話題殺到--そして噂通り、「江口愛実」の正体は、6人の顔のパーツを組み合わせたCG合成キャラ。ここまでは誰もが知ることになった事実です。
これほどメディアを制覇したアイドルグループは、過去にもいなかったと思います。
ではなぜ、AKB48の動向にいちいち日本人が反応してしまうのでしょうか。そこには、単なる「流行」現象を超えた秘密が潜んでいる、とは言えないでしょうか。
総合プロデューサーの秋元康氏が「自覚」しているかどうかは別にして、AKB48に日本の伝統文化を作り上げてきた日本的感性のDNAが見て取れるのではないか、と私は思います。
たとえば、日本文化においては「アワセ・ソロイ・キソイ」という方法が大切にされてきました。「『アワセ』(合わせ)は二つのものを合わせること、『ソロイ』(揃い)は合わせたものを揃えていくことをあらわします。さらにそこに比較がおこると『キソイ』(競い)になります。日本はこのアワセ・ソロイ・キソイをすこぶる重視してきました」(松岡正剛『神仏たちの秘密』)。不揃いのものを、あわせて、競わせて、そろえていく。これが「歌合わせ」や「連歌」「能」「歌舞伎」「浮世絵」など、日本の伝統文化や様式美を特徴づけるエッセンスでもありました。
AKB48のメンバーを見ると、一人一人は不揃いで不完全かもしれない。その不揃いなメンバーから、目や鼻や口をピックアップして完成させた合成キャラ「江口愛実」。まさしく「アワセ・ソロイ・キソイ」という日本的方法のDNAが、「江口愛実」の作られ方に生かされています。
先日の「総選挙」の大反響も、同様に読み解くことができます。多くのメンバーが「ソロイ」、選挙という形で「キソイ」あわせた。同時に、「小さきものはみな美しき」という清少納言の言葉どおり、未成熟で不完全なものに惹かれる日本的感性を揺り動したところに、AKB48の成功はあるのでしょう。
すでに完成され成熟したプロ的歌手では「ない」からこそ、「自分の手で育てあげたい」というファン心理に火がつき、100万もの票が投票される結果になったのではないでしょうか。
目の前に見えているアイドルの背後に、1000年を超える伝統的な日本人の感性と独特の手法が横たわっていたとしたら。意識していないところで、そうした感性のDNAに人々がつき動かされているとすれば――。「江口愛実」は正真正銘の日本伝統美なのです。