米国内の基地でモニターの前に座り、まるでゲーム機を扱うように敵基地を攻撃する兵士。今、アメリカの戦争が激変している。無人機やロボット兵器の開発によって、SFさながらの「未来戦争」が現実のものになろうとしている。軍学者の兵頭二十八氏が解説する。
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2011年5 月のビンラディンに対する米特殊部隊「チーム6 」によるキル・ミッションの成功には、CIAが2009 年から密かに運用していたステルス高高度無人ジェット偵察機RQ-170 が決定的な役割を果たした。
この謎めいた中型機(翼長推定21m)は2007 年から南部アフガニスタンで目撃されていて、「タリバンは高空まで届くような対空火器を持っていないのに、どうしてわざわざステルス形状なんだ?」との素朴な疑問を抱かれていた。
答えは、「パキスタン軍は、中国製の防空ミサイルを一式装備しているので」であった。
RQ-170は2009 年後半に韓国にも持ち込まれている。それがどういう意味か、もうお分かりであろう。
危険(Dangerous)で汚く(Dirty)気鬱(Dull)な仕事なら、“人造人間”やロボットにさせた方がよいと、誰しも発想する。ロボットは死を恐れず、危険にもひるまない。上官の命令に反抗したり、待遇改善や賃上げを要求したりすることもない。今日みられるロボット兵器の普及は、むしろ遅すぎたであろう。
無人偵察機は、米空軍ではなくCIAが大成させた。1960年に有人の戦略偵察機「U-2」がソ連の対空ミサイルで撃墜され、CIAはロッキード社に「D-21」という超音速の無人偵察機を試作させたのに、米空軍のパイロット文化がサボタージュをして、正式採用させなかった。
同様の意見対立は1990年代前半、当時のゲイツCIA長官と空軍の間でまた持ち上がる。が、今度はCIAが押し切った。それが、ジェネラルアトミクス社製の中型無人機プレデターで、今や同機が小型ミサイルや小型誘導爆弾を吊して、中東の各地でどこの国の領土・領空かもお構いなく、ゲリラ容疑者を夜間に次々と爆殺する主役だ。米国は「武装CIA」という新しい軍隊を、対テロ戦争の中核として育成しつつある。
CIAではなく米空軍に所属するプレデターや、もっと大型で高く飛べる非武装無人偵察機のグローバルホークは、操縦もモニターもすべて、衛星を経由して米本土内の空軍基地から遠隔で行なっていた。
が、これは、前線地上軍との連携や通信帯域の節約等に不都合なことが多く、将来はより戦場に近い基地から遠隔操作する割合が増えよう。「無人機」といっても全自動ロボットではないから、一地点の監視任務のためには数機の予備機と100人以上からなる地上支援部隊が必要だ。
現在、米軍は大小各種の無人兵器を、海外の戦場で7000台前後も運用中だ
※SAPIO 2011年6月29日号