おぐにあやこ氏は1966年大阪生まれ。元毎日新聞記者。夫の転勤を機に退社し、2007年夏より夫、小学生の息子と共にワシントンDC郊外に在住。著者に『ベイビーパッカーでいこう!』や週刊ポスト連載をまとめた『アメリカなう。』などがある。おぐに氏が、アメリカにおける「帽子事情」を解説する。
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アメリカで最初にそれを見た時は、「あの人、髪が薄いのか、それとも、ハゲてんのかな」と思ったもんだ。何かというと、この国では、屋内でも帽子を脱ごうとしない人がやたら多いのだ。それどころか、帽子姿で食事しちゃう人までいる。
日本だったら「帽子で食事」だなんて、大変なマナー違反だと思うんだけど。近所のコミュニティカレッジでも、帽子を被ったまま平然と授業を受ける学生たちの多いこと! 野球帽、ニット帽、果ては派手なカウボーイハットまで……。
こらっ! 礼儀がなってなーい。まったく、親の顔が見たいよ、とプリプリしてたら、今度はうちの息子の通う中学校の保護者会で、校長先生の話を聞いてる間も、野球帽を被ったままのパパたちを、何人も見つけたのだった。な~るほど、「この親にして、この子あり」だったのね。
「もしかしたらアメリカでは、『帽子を脱ぐ=礼儀正しい』って発想自体ないのかも……」と仮説を立てたこともあった。でも、やっぱり違うみたい。だって、アメリカ人が集団でいるところに、いきなり国歌を流してみるとよく分かる。彼らは瞬時に起立し、帽子を脱ぎ、帽子を持った手を胸に当てるはずだから。
では、この国で一番、帽子を脱がねばならない場所はどこ? きっとそれは、教会だ。数年前、私の住むメリーランド州では、教会の中で帽子を脱がなかった息子に激怒した父親が、その息子をナイフで刺した、なんて事件もあったんだって。ひええええ。
アメリカでも、年配の友人たちは「授業中に帽子? 昔は絶対にありえなかったわ」と嘆いている。一方、若者は「帽子を被るも被らないも本人の自由だろ」。つまり「部屋でも帽子」は、ここ最近の風潮らしい。
※週刊ポスト2011年7月1日号