社会保障や65歳定年制をめぐって若者と高齢者の対立が顕在化しているが、世代間格差が広がるばかりの状況に対して、若者からはついに「老人民主主義」にNOを突きつける声が飛び出した。
若者たちからは「もはや選挙制度自体を変えるしかない」という意見も出ている。世代間格差の問題を取り上げた『「若者奴隷」時代』著者の山野車輪氏はこう嘆く。
「現在の人口構成では、高齢者の票を獲得しようと、高齢者を優遇する政策を提案する人が国会議員になる。若者の投票率が低いのは事実ですが、もし若者全員が投票に行っても圧倒的な数を誇る上の世代には勝てないと、政治を諦めている。もっと若者の意見が国政に反映されるように選挙制度を変える必要があります」
実際に年代別投票率の統計を見ても、年齢が上がるほど投票率が高くなる傾向はある。20代は49.4%、一方の60代は84.1%だからその差は歴然。人口も多く投票率も高いとなれば、政治家が高齢者を狙うのは当然の成り行きだ。
選出された政治家は、必ずしも高齢者のための政治だけをやっているわけではないだろうが、例えば震災復興の予算捻出のため「子ども手当」は真っ先に削られるのに対して、年金など社会保障費を削るという意見は与党からも野党からも出てこないのが現実だ。
人事コンサルタントの城繁幸氏も、選挙制度の抜本的な改革を訴えている。
「私は若者の声が政治に届くようにするためには、『年齢別選挙区』の導入が必要だと考えています。人口の構成比に合わせて議席を配分しますので、投票率にかかわらず、若者向けの政策を打ち出した議員が確実に当選できます」
もう少し説明を加えると、「年齢別選挙区」とは、選挙区を地域でなく、たとえば30代までの「青年区」、40~50代の「中年区」、60代以上の「老年区」のように世代別に分け、それぞれ代表者を選出する方式だという。現在の有権者数の人口比に当てはめると、衆院480人のうち「青年区」代表の国会議員は143人も生まれることになる。
「こうした制度にすれば、若者向けの政策を打ち出す候補も出てくるし、そうなれば若者の投票率も上がるはずです」(城氏)
この「年齢別選挙区」構想は、井堀利宏・東大教授が提唱し、竹内幹・一橋大学准教授や経済学者の池田信夫氏らも支持している。
竹内氏はさらに「年齢別選挙区」を拡張して、なんと「平均余命(あと何年寿命があるか)に応じて議席を配分する制度」まで提唱している。
25歳の人の平均余命と55歳の平均余命には2倍の開きがある。そこで20代の選挙区は50代の選挙区に対して2倍の議席を配分し、1票に格差をつけるのだ。極論すれば、この制度は高齢者の1票の権利を奪うともいえる。
この国にこれから長く生きていく世代の声を政治に反映させる仕組みだというが、真剣に検討されていること自体、驚くべきことだ。
※週刊ポスト2011年7月1日号