広瀬和生氏は1960年生まれ、東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。30年来の落語ファンで、年間350回以上の落語会、1500席以上の高座に接する。その広瀬氏が「改作の達人」と評する落語家が、立川談笑である。
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立川志の輔・立川談春・立川志らく。この三人が立川流の俊英三羽烏だが、彼らに続く「第四の男」として確固たる地位を築いているのが、改作落語で人気の立川談笑だ。1965年生まれ、東京出身。早稲田大学法学部卒業後、予備校講師をしながら法律家を目指したが、1993年に立川談志に入門。1996年に二ツ目、2005年に真打に昇進している。
談笑は落語界で最もアグレッシヴに「現代における大衆芸能としての落語のあり方」を追究している演者の一人だ。彼は落語常識に囚われない自由な発想で古典落語を「現代人にウケる噺」に作り変える。滑稽噺から大ネタ、人情噺に至るまで、談笑が手がける古典は数多いが、それはすべて大胆な「改作」だ。
「現代人のための古典の再構築」の先駆者に立川志らくがいるが、彼の根幹にあるのは強烈な「落語愛」だ。「古典落語は優れたエンターテインメント。もしも現代の観客に通じないとすれば、それは演者の怠慢である」と志らくは考える。
一方、談笑の原点には古典への「懐疑」がある。「現代人が古典を古臭いと感じるのはむしろ当たり前。だが、工夫すれば面白くなる」これが談笑の発想だ。
たとえば古典の名作『芝浜』にしても、談笑はまず「いくら酒浸りでも、夢と現実の区別が付かないのはおかしい」と疑ってかかる。「なのに亭主は女房の『財布を拾ったのは夢』という主張を受け入れた。何故?」――そういう発想で談笑の「改作」は展開し、「論理的に正しい解答」となるべき新演出に到達する。古典に違和感を覚えながら、古典から逃げない。それが談笑だ。
※週刊ポスト2011年7月1日号