竹下正己弁護士の法律相談コーナー。今回は「母が退去した老人ホームが、納めた内金を精算してくれません」と、以下のような質問が寄せられた。
【質問】
有料老人ホームに入った母が、気に入らなくて2か月で退去したのですが、内金として入れた500万円を3か月経っても精算してくれません。解約返金については、厚生労働省が原則のようなものをつくったと聞きます。解約と返金についてアドバイスをお願いします。
【回答】
有料老人ホームの入居に際しては、最初に高額の入居金を一括して支払うのが普通です。適用される老人福祉法には格別の制限はなく、その29条6項と厚労省令で前払金に関して、「家賃又は施設の利用料並びに介護、食事の提供及びその他の日常生活上必要な便宜の供与の対価として収受する全ての費用」について、算定基礎を明確にすることと、返還義務がある場合の保全措置を求めているだけです。
そのため、あなたの例のように、途中で解約して返還を求めても、償却や返還しない約束などを盾に、返金に応じない例が少なくありません。「終身利用権料」という名目で支払った入居金を返さないのは、異常に高額な違約金と同じで、平均的な損害を超えているから消費者契約法9条違反で無効であるとして、返還請求した事件がありました。しかし、専用の個室を終身使用できることの対価という側面があり、違約金ではないとして退けられています。
実務では、都道府県が有料老人ホーム施設指導指針を定め、消費者の利益を擁護していますが、毎月の利用料等の費用以外に入居金を徴収することや、契約時に20%程度の償却を認めるなど万全とはいえません。さらに指針では90日以内の解約であれば、原状回復費を控除した残額全額の返済を指導していますが、実際には遵守されていませんでした。
そこで今年の3月に老人福祉法の改正案が閣議決定され、家賃や敷金及び介護等その他の日常生活に必要な費用以外に権利金を受領できないこと、前払金を受領する時は入居日から90日までの間に契約が終了した場合には、実費相当額を控除した残額を返還する契約の締結を義務付ける法案が国会に上程されています。
順調にいけば来年4月1日から施行の予定です。
●弁護士竹下正己
<プロフィール>
1946年、大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年、弁護士登録。
※週刊ポスト2011年7月1日号