「世界一の歯車へ」を標榜するUst番組「ザ・サラリーマン」。その構成を務めるDJサエキング氏には、全国のサラリーマンから「ザ・サラリーマン道」ともいえそうな“サラリーマンを生き抜く術”“サラリーマンの様式美”に関する目撃談・体験記が続々と寄せられる。今回は中堅のIT系広告会社に勤めるK氏(29歳)から。
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K氏はインターネット広告を専門に扱う社員30名程度の会社に勤めているプランナーだ。IT系の会社は、社員の平均年齢が若いこともあって、業界の商慣習や立ち振る舞いなどにさほど気を使わなくて済むところが多い。K氏のいる会社もそんな社風だった。
しかし、そんな会社の空気を一変させた人物がいた。K氏の会社に印刷会社から転職してきたA氏(33歳)だ。K氏はA氏の「サラリーマン道三段」ともいえそうなスゴ技に仰天する。
「32戦30勝1敗1分――これ何の勝敗だと思います?」
そう語るK氏だが、この数字とは、A氏が名刺交換の際、「相手方の名刺の下から自分の名刺を渡せたかどうかの勝敗表」なのだという。サラリーマンの世界では、なぜか「上から名刺を渡そうとするとエラソーに見え、へりくだる姿勢を見せるために下から名刺を差し出す」という様式美があり、時に「下の取り合い」ということになる。
K氏も下から渡そうと思ってもなかなか渡せない経験があり、A氏の腕前を習得したいと考えた。そして、その極意をズバッと聞いてみた。
「まず自分の名刺を中指と人差し指で挟む。そして差し出したら一気に人差し指と親指で相手の名刺を挟むんだ! そして挟んだら例え身内に不幸があっても離さない位の気持ちで掴むんだ!」(A氏)
どうもこの「一気に」がポイントらしい。躊躇しているとその間にさらに下に移動され、二人して永遠に下がっていかなければならない。そこまでして…と思うK氏だったが、A氏はK氏のその認識に強く反論する。話は席次の話に及んだ。
「応接室、タクシー、エレベータの中はもちろん、トイレ、二人三脚、三人四脚、ロックバンドにも上座、下座がある。いいかK君、トイレで上座、下座を知らないばかりに評価を落とし、左遷されたサラリーマンを俺は何人も知っている…」
間違いなく別の要因だと思われるが、いつものように適当に相槌を打っていると、甲子園球場に連れて行かれた日があった。「いいかK君、この広い球場にも上座と下座があるんだ。俺らが座っているライトスタンド、ここが上座だ。グラウンドの中はどこだと思う? それは、キャッチャーだ!!!」と、誇らしげにA氏は答えた。
ちなみにA氏、転職してから4ヵ月が経ったが、いまだに新規受注はない。