ダルビッシュ有投手とともに日本ハムを牽引する中田翔選手の活躍が素晴らしい。18日に地元・広島で行われたカープ戦では2本塁打5打点で故郷に錦を飾り、オールスター・ファン投票の中間発表でも外野手部門で首位を独走する。爆発の秘密は地元に帰って、やっと焼肉の「コウネ」が食べられたから、という。一般には知られていないその肉はなんなのか。
「コウネ? そんな肉の部位は聞いたことないですわ」
焼肉の本場・大阪の食肉卸業者も首をひねるその部位は、実は特に広島市を中心に食べられている。広島食肉市場株式会社の築道繁男専務は「あれは旨いでぇ!」と、嬉しそうに語る。
「コウネは牛の前足の脇から胸当たりの肉なんです。牛が座るときに地面につくので、鯨のオバイケみたいのように脂肪が固くなります。焼くとコリコリした食感が特徴です」
馬肉がよく食べられている熊本では脂肪分が多い馬のタテガミ付近の肉を指す言葉だった。脂肪の性質がよく似ていることから、広島でも「転用」されたようだ。
「もともとは市場で働く人たちが薄く切ってすき焼きなどで食べていたそうです。味が濃くて香りが良いので評判が口コミで広がって、15年くらい前から広島の焼肉店のメニューに載るようになったんですよ」(築道さん)
都内の焼肉店で珍しく「コウネ」を出す銀座「宮島」の佐藤店長が語る。
「コウネはブリスケというバラ肉の上の部分で、たぶんほとんどの店では切り分けたりせずそのままバラとして出しているんじゃないでしょうか。うちはオーナーが広島出身なので、卸さんに特別に分けてもらっています」
さっそく食べてみた。もともと固い肉なので薄切りにして、塩味でさっとあぶるぐらい。それでも脂肪に火がついて燃え上がる。口の中に入れると、なるほど脂が広がり、噛むと歯ごたえがある。
「広島出身のお客さんはメニューにコウネを見つけるとものすごく喜びますね(笑)。あと焼肉ファンの方が珍しいところ食べたいと注文されます」(佐藤店長)
一頭から取れるのは2キロないという希少部位にも関わらず、この店でも850円と値段は普通。脂の旨みでビールがぐいぐい進むこと間違いなし。中田翔にあやかって、節電の夏を乗り切るコウネ・パワーをお勧めする。
●取材・文/神田憲行(ノンフィクション・ライター)