現在の株式市場で注目を集めるテーマに「クラウド・コンピューティング」がある。IT関連ということで業績の浮き沈みも激しそうに思えるが、「東京IPO」編集長の西堀敬氏によると、「将来にわたり安定した収益が期待できるビジネス」なのだという。以下、西堀氏が解説する。
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従来は手元のパソコンで管理・利用していたソフトウェアやデータを、ネットワーク上で必要な時に利用できる「クラウド・コンピューティング」。
最近では、携帯電話、特にスマートフォンでも、クラウドを利用したサービスが提供されている。例えば、iPhoneやAndroid端末で利用できるサービスに「Evernote」がある。スマートフォンやパソコンからテキスト、写真、音楽、動画などを保管できるアプリで、ユーザーが記録したデータをインターネット上のEvernoteのサーバーに保管し、別の機器からアクセスしても利用できるというクラウド・サービスだ。
今回の大震災の経験から、災害発生時の通信手段として、データ通信の強みが実証された。大震災の混乱の中で、電話はつながらなくても、メールは通じたという記憶のある人は多いはずだ。そこで、クラウド・サービスはディザスター・リカバリー(災害復旧)の観点からも、重要性が高まってきている。
今後ますます、会社の自前のサーバーに自社のデータを保管するだけではなく、外部のデータセンターに重層的にデータを保管し、また社員が外部からアクセスできる仕組みの構築が急務となっていきそうだ。その点で、データはインターネット上のサーバーに保管されていて、必要なデータをその度、通信して手元の端末で使うことができるクラウド・サービスのメリットが評価され、需要拡大が進むことは間違いないだろう。
また、電力供給不足の懸念などから、特に今年の夏は、会社で仕事をするよりも、社員が自宅からサーバーにアクセスして仕事をするという、SOHO的な勤務体系に切り替える会社が増えてきているという。その意味でも、同じサービスを同じアカウントで使っていれば、自宅のパソコンや職場のパソコン、スマートフォンなど、どんな端末からでも同じデータを利用できるというクラウド・サービスのニーズが高まることに疑問の余地はない。
クラウド関連銘柄に株式市場が注目するのは、それだけではない。クラウド関連事業者の多くが、一度受注してしまえば、顧客が他社のサービスに乗り換えることがほとんどなく、新規顧客を獲得した分だけ利益が積み上がるという、実質的なストックビジネスを展開していることだ。そのため、将来にわたり安定した収益拡大が期待できるのである。
もちろん、クラウド関連株も数多く、玉石混交といえる。基本はストックビジネスで、業績変動リスクが少ないと思われる銘柄を見極めることだ。そうすれば、投資家にとってのリスクも抑えることができる。
※マネーポスト2011年7月号