かつて韓国では北朝鮮に対する批判意識が高かった。その後盧武鉉政権下での「太陽政策」などもあり国民の間では融和に動く向きもあるが、かつて存在した韓国の反共・反北朝鮮意識、そして現在の実態について、産経新聞ソウル支局長の黒田勝弘氏が解説する。
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韓国で北朝鮮に対する批判や対決意識が強かったころ、いたるところに「滅共統一!」などといった反共スローガンが見られた。また観光地や遊園地の射的ゲームでは、標的に決まって金日成の似顔絵があった。
韓国国民にとって金日成は朝鮮戦争の元凶であり、悪のシンボルだった。だからその顔にコルク鉄砲を撃ったり、ボールを投げつけたりして溜飲を下げていたのだ。
そうした反北意識の最高傑作(?)にこんなものもあった。女性たちは毎月やってくる“月のモノ”を「金日成が来た」と言っていたのだ。当時、北朝鮮は「パルゲンイ(赤)」といわれていたからだ。
しかし1980年代末からのいわゆる民主化で、そうしたブラック(?)ユーモアを含め対北脅威感はすっかり後退してしまった。今や反共スローガンなどどこにも見当たらない。
ところで最近、反共時代を思い出させるエピソードがあった。韓国軍の射撃訓練場で、標的に金正日・正恩父子の写真が使われていたというのだ。現役部隊ではない除隊者たちによる予備軍の訓練で分かったという。
これがニュースになった際、軍当局はマスコミの問い合わせに対し「現場の判断によるものだ。昨年の哨戒艦撃沈事件や延坪島砲撃事件を受けて対北戦意高揚の意味がある」などと答えていた。
ところがこの話に北朝鮮がかみついてきたため、「北を刺激することはない」となって標的から外してしまったのだ。韓国軍は北朝鮮にあれだけやられながら、また“元の木阿弥”のようだ。こんなことまで自主規制するとは、軟弱さ(?)は相変わらずである。
※SAPIO 2011年6月29日号