東日本大震災を受けて消費税アップの議論が加速している。しかし、「消費税アップは円安へのトリガーを引くが可能性がある」と三菱UFJリサーチ&コンサルティング執行役員の五十嵐敬喜氏は指摘する。
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日本経済はなかなか勢いのある回復の兆しが見えない中で、今の金融緩和政策から抜け出すことが難しいだろう。
一方、欧州や米国はそれに比べて、金融引き締め(いわゆる「出口戦略」)が日本よりも早く実現される可能性が高い。そうなれば、金利の高いドルやユーロが強くなり、円は弱含むというトレンドになるだろう。 そうした中、為替が大きく動く可能性があるのは、2013年頃である。
政府は、2012年か13年に消費税を2%または3%アップさせ、2015年に再度税率を上げ、「消費税10%」にする“2段階方式”で検討を進めている。消費税は1%アップすると、2.5兆円の増収になると言われており、仮に現状より5%アップすると、12兆5000億円の税収増となる。
ただし、このお金の使途が問題だ。 これまでの政府の説明によると、この増収分は財政赤字の削減に充てるのではなく、不足する財源の穴埋めに使うとしている。
消費税によって得た収入は国と地方で案分するが、そのうち国の収入となるものについての使途は、「高齢者向け社会保障3分野」(基礎年金、医療、介護)に充てると定められている。
増収分の12兆5000億円がこれらの分野に使われ、それまで他の財源から充てられていた「浮いた12兆5000億円」がそのまま財政赤字の埋め合わせに使われるならよいが、「パートの年金拡大」や「子ども手当」など、他の膨脹した予算に使ってしまうと、結局、全体としてみれば赤字は削減できないということになる。
これが問題なのだ。
消費税を上げても、プライマリーバランス(基礎的財政収支)が均衡しないつまり、“せっかく収入を増やしてもそれと同じだけ歳出を増やしてしまう国”ということになれば、国際社会からは「痛みを伴う財政再建ができない国」として烙印を押されてしまうことになる。
これほど財政が悪化しているにもかかわらず、これまで円安が進まなかったのは、日本が経常黒字であることや、世界最大の債権国であるといった経済のファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)の強さに加え、「まだ増税の余地がある」からでもあった。
消費税が20%前後の欧州諸国に比べれば日本の「5%」は非常に安く、「増税すればどうにかなる」というのが暗黙のコンセンサスだった。
しかし、それが「増税をしてもこの国の財政はまったくよくならないどころか、さらに借金を重ねるつもりだ」というメッセージとなって伝われば、「強い円」の根拠は失われてしまう。
国家財政のために「よかれ」と思って行なった大きな政策変更=消費税アップが失敗に終わった時、市場は厳しい対応をしてくる。引き金を引くのは格付け会社による「大幅な格下げ」だろう。
今年に入り、日本国債の格付けの引き下げや、見通しの変更(ネガティブへの見直し)が行なわれたが、実際には円は暴落しなかった。これは、現在の状況では「円」よりも「ドル=米経済」のほうが市場で材料視されているからだ。
しかし、2013年頃に「消費税を上げても財政再建できない」ことがわかった時に、“この国はダメだ”と国債が格下げされれば、市場からは「イエローカード」として捉えられるだろう。
当然、円は大幅に下落し、1ドル=100円を突破することになろう。