菅直人首相の居座りでがんじがらめの永田町。もしかしてあるんじゃないか、と思われているのが「亀井静香首相」である。
国民新党代表の亀井氏は大メディアにも派手な喧嘩を吹っかける。「金融モラトリアム法」反対キャンペーンを張る新聞記者たちを、記者会見でこう挑発したのだ。
「朝日新聞は(モラトリアムをやったら)、借り手が返せなくなった場合は1兆円ぐらい焦げつくかもしれない、税金で穴埋めしなければいけない、けしからんみたいなことを書いている。銀行には今も12兆円の資本注入をしているのに、中小企業は自分の責任ではない不況でどれだけ苦しんでいるか。それを助けるのが政治でしょう。あんなことを書いて、東京でぬくぬくと高禄を食んで記者稼業をやっている。悪いとはいわないが、皆さん、考え方が偏っていませんか」
そのうえで亀井氏は大臣会見を主催する記者クラブに対し、フリーランスやネットメディア、海外メディアの記者に会見を開放するように申し入れたが、クラブ側は拒否した。
「なんて封建的なことをやっているんだ」
怒った亀井氏は記者クラブ主催とは別に、自由参加形式の大臣主催の会見を大臣室で開いた。大メディアは、「大臣会見『分裂』」(朝日)などと一斉に批判した。それに対して、亀井氏がとった報復措置が、重要な情報を記者クラブではなく、もっぱら自由会見の席で語るやり方だった。
これには記者クラブが白旗を揚げた。自由会見に出ないと記事が書けない。結局、クラブ側は加盟していない記者の出席を認めて会見は一本化された。
現在も、亀井氏は新聞が増税礼賛記事を流していることに、「国会図書館に行って、戦前、日本が間違った戦争の道に入っていったとき、先輩記者がどんな記事を書いていたか読んで学んだ方がいい」と番記者たちを挑発している。
マスコミ論調に振り回されないのは、「悪役」「汚れ役」を自覚する亀井氏にはメディアに媚びる必要がないからだ。
一方の菅首相は、中身が空っぽだからメディアを敵に回すことを怖れ、政権を掌中に収めると、いの一番に「マスコミ論調に合わせた政策をやれば批判されない」と記者クラブに全面降伏し、国民に本音で語りかけることを放棄した。
亀井氏は最後は金融庁の官僚や銀行業界とうまく妥協しながら、金融モラトリアム法という“中小企業徳政令”を仕上げた。
その後、亀井氏は鳩山内閣が総辞職した際、民主党との連立合意である郵政改革法案が審議入りもしていないという理由で金融相を辞任した。引き際を知ることも永田町で“長生き”する秘訣である。菅首相とはどこまでも対照的だ。
※週刊ポスト2011年7月8日号