最近、高齢者や震災後不安をターゲットに、外貨を使った詐欺が急激に増えているという。弁護士の紀藤正樹氏がその新たな手口を明かす。
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外貨を使った投資詐欺の“エサ”として登場するのは、スーダン共和国通貨(スーダンポンド)やイラク共和国通貨(イラクディナール)。
これらの通貨は日本では換金性に乏しく、銀行での取り扱いがない。しかも2003年に1イラクディナール=300円だった為替レートはイラク戦争で大暴落し、現在1イラクディナールはわずか7銭ほど。
業者との取引は2万5000ディナールを10万円で購入するケースが多いが、2万5000ディナールは現在のレートで約1700円に過ぎず、実に60倍近い暴利をむさぼられている。スーダンポンドにいたってはレートすら不明だ。
外貨の売買そのものは法規制の対象外だが、「確実に値上がりする」といった表現は消費者契約法に抵触し、本来は契約を取り消せる。
だが多くのケースでは動いた金額が大きいうえ業者が姿をくらますなど悪質で、刑法の詐欺罪が適用されるべきだろう。
絵空事じみた詐欺と感じるかもしれないが、被害は決して少なくない。国民生活センターによるとイラクディナール購入についての相談は2009年8月から今年5月下旬までに924件。支払総額は約24億7700万円で最高額は1億3000万円に達する。
イラクディナールの約1年後に登場したスーダンポンドは2010年8月から今年5月下旬まで516件の相談があり、支払総額約11億8500円で最高額は7100万円だ。イラクとスーダン合わせて実に36億5000万円を超える巨額の被害総額となっている。被害者の8割は60歳以上の高齢者である。
なぜ荒唐無稽とも言える儲け話にひっかかるのか。そこには投資者の心理をついた巧妙な戦術がある。
投資する側にすれば、通貨という実際に流通している「現物」が商品のため安心感がある。このため、通貨詐欺は未公開株詐欺などより1件あたりの被害額が高い傾向がある。
手口はこうだ。業者はまず、証券会社作成と見紛う立派なパンフレットをDMで郵送。その後電話などでいかに投資に適しているかアピールする。
「米軍がイラクから撤退すれば貨幣価値が30倍になる」
「スーダンは石油資源が豊富で将来有望」
さらにほとんどのケースで複数の業者が登場し、DMを送付したのとは別の業者が「この通貨は人気があって残りが少ない」「A社から購入すればわが社が高値で買い取る」と煽り立てる。典型的な劇場型犯罪の手口である。
※SAPIO 2011年6月29日号