関東での計画停電後に始まった政府と電力会社の合作による「節電しなければ大停電」キャンペーンが、セミの鳴き声とともにボルテージを上げ、全国的な広がりを見せている。騙されてはならない。彼らが節電を叫ぶのは、原発を止めたくないからである。
大停電を煽ってまで経産省と電力会社が原発再開に邁進するのはなぜか。管内にある“巨大発電所”の存在を利用者に隠し通したいからだ。
本誌は6月24日号で、PPS(特定規模電気事業者)についてレポートした。PPSは自前の発電所で作った電気を販売する電気事業者で、高コスト体質が染みついた既存電力会社に比べ2~3割も安く電気を供給する。法律上、個人宅などの小口需要者は購入できないが、大口需要者たちは今やこぞって既存電力会社からPPSに乗り換えている。
15%の節電要請をしている関西電力エリアにはPPSなど「非関電」の自家発電所が418か所もあり、その出力合計は669.2万kW。そのうち96%が火力発電所で、中には出力140万kW(2基合計)を誇る神鋼神戸発電所(石炭火力)のように標準的な原発1基分(約110万kW)を上回る発電所もある。
ところが、これらの自家発電は100%稼働しているわけではない。エネ庁の統計によれば、近畿エリアにおける昨年8月の自家発電による発電量は約29.8億kWh。669.2万kWの出力でフル稼働した場合の約60%なので、40%分は“眠っている”状態といえる。出力に単純換算すれば「余力」は約268万kWもある。
その中には関電の送電線とつなぎようのない離島の自家発電所や、製鉄所に併設された火力発電所のように、常に運転することが難しいものもあるが、そうした歩留まりを勘案して、今夏利用できる分を268万kWの半分と見積もっても、関電は原発1基分以上の電力を今すぐにでも得られるはずなのである。PPSや自家発電を持つ企業に、「ウチでは電力が十分に供給できないので、8月だけはフル稼働してください」と関電トップが頭を下げて回れば、電力不足はたちどころに解決する。
しかし、それこそ既存電力会社と経産省が最も困るシナリオなのだ。経産省幹部がこう語る。
「PPSが本格的に供給する事態となれば、関電の電力網の中に“関電製の高い電気”と“PPS製の安い電気”が同居することになり、需要家から“関電の高い電気は要らない”という声が出てくるのは避けられない。
とりわけ消費者の目が厳しい関西では、電力自由化を叫ぶ声が一瞬にして膨れあがり、関電批判が噴き上がる。経産省と電力会社が築いてきた地域別独占体制と発・送・配電の一体化という仕組みが崩れてしまう」
そうした事態を避けるために、既得権側はなりふり構わぬ抵抗を見せている。
※週刊ポスト2011年7月8日号