「食の安全は大切」「消費者のため」お役所が“正論”を振りかざしている一方で、安全規制の対応はチグハグしている。いつまでも「暫定」であり続ける放射能の食品基準に対して、元行政改革担当大臣の補佐官で政策工房社長の原英史氏が憤る。
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今回の原発事故で食の安全規制のチグハグさが問題化した。典型が「暫定基準(値)」という言葉だ。「放射性ヨウ素は飲料水や牛乳で300ベクレル/kg、野菜で2000ベクレル/kgなど、すっかりお馴染みになった数値だが、これは、食品衛生法上、放射能の食品基準がなかったため、暫定的に厚労省が定めたもの。
だが、なぜ、放射能の食品基準は作られていなかったのだろう。かつてチェルノブイリ事故(1986年)の時も、厚生省は「輸入食品中の放射能の暫定限度」(セシウム134と137の合計で370ベクレル/kg)を定め、輸入食品の検査を行なった。
この検査は長く続き、2001年になって欧州からの輸入食品でチェルノブイリ由来の汚染が見つかる例もあった。だが、驚くのは15年を経てなお、「暫定限度」のままだったこと。
その間、原子力安全行政の領域では、原子力安全委員会が摂取制限の指標を定めている(今回の「暫定基準」の参考にされたもの)。しかし、内閣府の原子力安全行政と厚労省の縦割りの壁もあり、厚労省は「国内では事故が起きていなかったから」(医薬食品局監視安全課)との理由で、放射能基準は作らないままだった。そして今回再び、「暫定基準」を作る事態になったのだ。本来なら、あらかじめ十分に審議検討して規制を作っておくべき。平時は大事なことを放置し続け、緊急時になると慌てて「暫定」で対処。こういう泥縄体質だから、国民は安心できない。
※SAPIO 2011年6月29日号