世界で特に大きな兵器市場は毎年二桁成長を続ける中国だ。その容赦のない平気コピーと中国への警戒の実態について、軍事ジャーナリストの清谷信一氏が解説する。
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欧米諸国は天安門事件以来、中国に対する兵器輸出、技術移転を自粛しているが、EUの対中武器禁輸に関していえば「紳士協定」であり、罰則は存在しない。実際には特に欧州製の汎用品・技術と称して、かなりの軍用コンポーネントや技術が移転されている。
また、中国企業は見本市などでイナゴのような勢いで先進国の技術収集をしており、これらの“企業努力”で製品力をアップしてきた。例えば中国国営の軍事コングロマリット、ノリンコ社は仏ネクセター社が開発していた自走砲、カエサルの情報を収集・コピーして同様の機能を持つCH-1を先に実用化し、人民解放軍に配備している。
のみならず輸出まで行なっている。近年中国はネットワークシステムや大型艦などの付加価値の高い製品の輸出に力を入れており、安さを武器に従来フランスやロシアが強かったアフリカや中東などの市場を蚕食している。
サルコジ大統領は中国の「仁義なきビジネス」に怒り、2006年にパリで開催された見本市、ユーロサトリでは中国企業を締め出した。また戦車などを製造する国営のネクセター社のブースは壁で覆われて招待者しか入場できなかった。これは中国に対して警告のサインを送るためだった。
しかし、次回のユーロサトリからは再び中国企業の参加が許されている。中国はエアバスなど航空機やその他多くの工業製品の優良顧客であるため、あからさまに敵対できないからだ。
警戒しているのはフランスだけでない。ロシアは中国への技術供与を渋り始めている。中国はロシアから買った戦闘機Su-27を勝手にコピーした。これにロシアが猛抗議すると、今後このようなことを行なわないと念書を書いたにもかかわらず、今度はSu-27の海軍型であるSu-33のコピーを行なうなどしているので、当然といえば当然だ。しかも中国はロシアにとっては国境を接した「仮想敵国」でもある。
中国は旧ソ連製の兵器を無断でコピーして輸出するのみならず、パキスタンやイランから「ライセンス料」をとって製造させている。ロシアが面白かろうはずがない。しかもこれらの兵器の一部がヒズボラやシリア、アフガンの民兵組織などにも流れている。このような民兵組織相手のビジネスは北朝鮮も行なっていると見られている。
特に中・パの協力関係は密接で、主力戦車や戦闘機まで共同開発を行なっている。共同開発した戦闘機JF-17は50機がパキスタン国内で組み立てられている最中だが、この5 月に追加でさらに50機、中国から供給されることが決定した。
これは中国の最大の仮想敵であるインドを挟み、牽制するためであり、またパキスタンを通して中東やイスラム諸国に兵器を販売している。
また中国はNATO加盟国であるトルコや親米であるヨルダンにも貪欲に兵器を売りこんでいる。
※SAPIO 2011年6月29日号