20年ほど前までは、乳がんといえば不治の病であり「命をとるか、乳房をとるか」といった、選択を迫られることも…。現在は、乳房の形を残し、かつ命も助けるという治療が行なわれている。そんな乳がん治療の最前線を、日本で唯一のバスト専門クリニック「ナグモクリニック」総院長の南雲吉則さんに聞いた。
まず、「乳がんと診断されたら、乳房をとらないといけないの?」と疑問を抱くかたもいることだろう。
南雲さんは「現在の乳がん治療の第一選択肢は『乳房温存療法』。乳房全摘の可能性は低くなりました」と語る(以下同)。乳房温存療法とは、がんだけをくりぬき、局所再発予防に放射線をかける治療法。
「乳がんの進行度合いにもよりますが、がんが判明した場合はまず、病巣の切除手術を行います。ひと昔前までは、たしかに乳房の全摘術が主流でした。しかし、乳腺を全摘しても残しても、生存率は変わらないことが分かり、1987年頃から日本でも、なるべく乳房を残す治療法がとられるようになったのです」
また、乳房をきれいに残す方法についてだが、乳房温存療法には問題もある。
「温存術は、乳房の変形やがんの取り残しによる局所再発の恐れがあります。ですから、【1】乳房の大きさに比べてがんが大きい【2】がんが多発【3】広範囲の石灰化【4】がんが乳房の下半分にある、こういった場合は全摘術にし、あとで乳房再建手術をする選択肢も。
乳房の再建には、自分の背中や お腹から皮膚と皮下脂肪、筋肉を移植する“自家組織移植”と、皮膚をのばしてシリコン製の人工乳房を入れる方法がありますが、いずれも肉体的、時間的、経済的負担が強いられます」。
そこで近年、注目されているのが“皮下乳腺全摘同時再建術”。「この手術は、小さな傷から乳腺を全部取り出し、同時にシリコン を入れて再建する方法。手術も1回で済み、きれいな乳房が残せます」
そして、乳がんの発症に女性ホルモンが関わっているだけに、「閉経後は安心していいのですか?」という質問もあるが、南雲さんは否定する。
「残念ながらそうともいいきれません。たしかに、閉経後は女性ホルモンが分泌されなくなります。しかし、乳製品や肉を中心とした食生活を送っていると、女性ホルモンの材料となるコレステロール値があがるため、乳がんのリスクが高くなります。ですから、閉経後も安心せず、食生活に気を付け、肥満にならないようにすることが大切です」
※女性セブン2011年7月7日号