最新作『無花果の森』(日本経済新聞出版社、1890円)を発表した作家・小池真理子さん(58)。この作品では、夫の家庭内暴力に耐え切れず、わずか六十数万円の現金を手に失踪した失踪した38才の主婦の姿が描かれている。
マニュアル化した優しい言葉や笑顔が氾濫する一方、恐るべき勢いで人が孤立感を深める日本。小池さんはこう分析してくれた。
「日本人は、孤独に耐えられない民族ではないでしょうか。特に都市部では、孤独を気取るのがスタイリッシュととらえられがちだけれど、突き詰めて考えたとき、“人間は本来孤独である”という覚悟がそこにない。例えば、フランス人なんかはそれが徹底している。どちらがいい悪いではないけれど、その覚悟なしの孤独は表面上にすぎず、本質的な個と個のつきあいなんてできないのでは」
『無花果の森』の主人公・新谷泉は、一見地味でか弱いが、内部に強いものを秘めている。それは何があっても自分の人生を生き切る、命を断つことだけはするまいという強い覚悟だ。それは失踪者として見知らぬ街をさすらうこととなっても変わらない。
「どんなに絶望しても決して死なないで、という思いがあります。自殺者3万人といわれる時代です。実際にはもっと多くの人が苦しんでいると思いますが、死なずにいれば、きっと道が開けるはずと信じたいのです。希望なんて、軽々しくいうのは好きじゃないけれど、でも日々を生き抜くための小さな幸せ、“日常の光”を積み重ねて生きる女性を描きたかった」
未曾有の大震災が追い打ちをかけ、人々の不安とやるせなさは募るばかりだが、自分の人生を必死に生き抜こうとするひとりの女性の姿に、きっと励まされるはずだ。
※女性セブン2011年7月7日号