ファンから愛された名物オーナー・久万俊二郎氏は、今の真弓阪神の体たらくをどう見ているだろう? それを聞いてみたかった。久万氏は齢90。オーナーを引退し、社長・会長を務めた阪神電鉄でも一線を退いている。最近はメディアにも登場しなくなっていたが、かつては就任直後の1985年に日本一を達成し、野村、星野の“外様監督”を招聘するなど辣腕を振るった。
一方で歯に衣着せない言説が毀誉褒貶を呼び、物議を醸してもきた。低迷が続いた中村監督には「スカタン」、主砲の掛布には「人間失格」、自ら招いた野村監督さえ「詰めが甘い」と切って捨てた。
いまの真弓阪神は、12球団一ともいわれる巨大戦力と、間違いなく12球団一の高給にもかかわらず、采配ミスと主力の故障、勝負弱さを露呈して散々な成績だ。ここは「久万節」を聞きたいところである。
本誌記者は6月のある週末、神戸・山の手の閑静な住宅地に久万氏を訪ねた。一線を退いてからも、何度もここでタイガースへの愛情あるアドバイスや苦言を聞いてきた。しかし、家人を通じて、「もう引退した身だから、球団のことについても話しません」という寂しい答えが返ってきた。苦しいチーム事情を慮って“外野の雑音”を封印しているのか、それとも本当にタイガースへの愛が冷めたのか。諦めきれずにその後も何度か久万家を訪ねたが、答えは変わらなかった。
そして交流戦が終わったある日、本誌記者は再び久万家に向かい、そこで驚くべき光景を目にしたのだった。久万家の前に救急車が横づけされ、茫然と見ていると、担架に乗せられた元オーナーが運び出され、近くの病院に運ばれて行ったのである。会社関係者と思われる人物が、あわただしく出入りする姿もあった。
久万家の関係者は堅く口を閉ざし、阪神電鉄では「すでに退職された方ですから、こちらでお答えすることはない」というのみ。元オーナーを知る人物は、こんな言葉を残した。
「数年前に奥様が体調を崩されてからは、自宅でずっと付き添ってきた。子供や孫が訪ねてくるのを楽しみにしていて、これまで電鉄経営とタイガース強化に奔走して犠牲にしてきた家族の時間を取り戻しているようだった。
体調のことは存じ上げないが、決して弱音を吐かない人だから回復してくれるはず。タイガースへの情熱は全く衰えていなかったから、快進撃のニュースでも聞けば飛び起きるでしょう」
もうタイガースナインも甘えたことはいっていられなくなった。
※週刊ポスト2011年7月8日号