往年の人気シリーズ『ザ・ガードマン』『銭形平次』などテレビに映画、舞台に朗読と幅広く活動してきた芸歴55年の名バイプレーヤー、入川保則(71)が直腸がんの診断を受けたのは昨年7月。すでに全身に転移しており、延命治療も拒否したことを告白したのが、今年3月8日のこと。この時「余命半年」の宣言を受けていた。入川自身が、現在の状況を語った。
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僕はすでに自分の葬式の式次第を完成させました。業者とは打ち合わせも終わらせてあります。残された人たちが、やらねばならないことがひとつもないように手筈は整えてある。業者が、「お坊さんはどうなさいますか」と訊くものだから、「僕は無宗教。坊主の読経はいりません」と答えました。
しかしそれでは式に締まりがないと思ったので、「では、僕が自分で般若心経をテープに吹き込んでおきましょう。それを式の冒頭で二度ほど流してもらえば充分です」。これはわれながらいい案だと思いました。俳優人生を賭けた、いい朗読で吹き込んでおくから、とね。
がんを公表して以来、気を揉んだ友人たちが「お別れの会」と称して飲み会を開催してくれるんですが、みんな僕が元気なことに驚く。
「慰めようとしたんだけど、おまえの元気な様子を見て逆に励まされたよ」
そんなことを言うんです。なかには「仮病じゃないか」と言うヤツまで出てくる始末。
――だが実際には布団を上げるのも、掃除や洗濯をしにコインランドリーに行くのも、難儀だという。
それでも昼の3時くらいになれば調子がよくなってくる。そして宵にさしかかりお酒を飲みだすと、シャンとなる。友人たちが「ほんとにがん?」と訊くのもムベなるかな、です。僕の場合、治療のための全ての薬をご遠慮願いましたが、灘の生一本だけは手放せない良薬のようです。「いつ逝くとも知れぬ身で、一人で暮らすのは精神的に苦痛ではないのですか」そうも訊かれますが、ココロの淋しさはありません。
【プロフィール】
入川保則(いりかわ・やすのり)1939年11月10日生まれ。兵庫県出身。『水戸黄門』や『部長刑事』といった時代劇や刑事ドラマを中心に名脇役として活躍。NHK大河ドラマには『太閤記』『徳川家康』はじめ8本に出演。著書『その時は、笑ってさよなら 俳優・入川保則 余命半年の生き方』がワニブックスより発売中。
※週刊ポスト2011年7月8日号