朝日新聞の記者が撮影した殺人事件容疑者の写真が警察のチラシに使われたことが発覚し、他の記者クラブメディアは“取材結果を報道目的以外に使うのはジャーナリズムに反する”と朝日批判を展開した。そういうのを「目糞、鼻糞を笑う」という。
朝日は6月19日の朝刊で滋賀県警への写真提供を認めて、〈殺人事件への捜査協力のためとはいえ、取材で撮った写真を提供し、結果として報道目的以外の使用となりました。関係者に対しては厳正に対処します〉との大阪本社編集局長のコメントを掲載した。
しかし裏事情を知れば、他紙の朝日批判も朝日新聞の反省ぶりも、なんとも白々しい。
在阪の大手紙社会部記者が明かす。
「チラシには容疑者の逃亡時の写真が2枚掲載されています。1枚は朝日が提供した写真で、問題は他のもう1枚。これが朝日とは別の記者からの提供だったそうです。
クラブ内では“どこが出したんだ”という話題になったが、警察への写真提供なんて日常茶飯事だから、別に犯人探しなんてしません。同じ写真を滋賀県版の紙面で使った朝日が不注意だったというだけですね」
後日、同じく県警記者クラブに所属する京都新聞社が写真提供を認めたが(ただしチラシには使用されなかった)、朝日批判をしたメディアの中に同じ穴のムジナがいたとは茶番劇もいいところだ。
朝日が糾弾されたのも、クラブ内の嫉妬だったという。捜査関係者の話。
「朝日の記者が県警にかわいがられていて、この事件では他社に先行してリークを受けていた。犯人は14日に指名手配されるが、朝日は12日には犯人を直撃取材しています。そのことを妬んでいた他社が憂さを晴らしたのと、“抜け駆けするな”と警告を発する意味もあったのでしょう」
滋賀県警に限ったことではなく、警察と記者クラブがズブズブの関係にあることはよく知られる。
「記者は捜査員から情報をリークしてもらうが、その情報は他社と共有するのが記者クラブの掟。特ダネを狙うより、1社だけ乗り遅れる特オチを嫌がる気持ちのほうが強いのがクラブ記者の習性で、横並びだと安心する」(前出の社会部記者)
田島泰彦・上智大学文学部新聞学科教授が指摘する。
「たとえ捜査協力であっても、ジャーナリズムは公権力の下請けになってはならない。権力側の意向に沿った報道をするようになり、結果的に国民の知る権利を侵害するからです。
逆に、メディアを手なずけたい権力側は同じ記者クラブ内であっても各社へ教える情報に差をつけたりします。すると歓心を買いたいメディア同士が競うようになり、さらに公権力側におもねることになる」
朝日の写真提供騒動は、飼い犬同士の醜い足の引っ張り合いでしかなかったというわけだ。
※週刊ポスト2011年7月8日号