レディー・ガガ人気が凄い。まぶたに巨大な目玉を描いた記者会見には驚かされたが、いったい彼女は、なぜこんなにインパクトが強いのか。作家で五感生活研究所の山下柚実氏は、独自の視点を提供する。以下は、山下氏の分析である。
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「世界で一番影響力があるセレブ」、レディー・ガガが原発事故のさなかに来日し、全世界にむけて「日本を愛している」とアピール。
緑一色で空港に現れたかと思えば、まぶたに巨大な目玉を描いて記者会見。過去にもブラジャーから火花を散らしたり、生肉ドレスをまとったりと、ド級の変幻自在ぶりに圧倒された人も多かったのではないでしょうか。
レディー・ガガの特徴を一言でいえば、「一度として同じファッションを纏わない」ことにあります。固定的なイメージで自分が捉えられることを、はっきりと拒絶しているかのように次から次へと、まったく異なったイメージで、自分自身を演出していく天才です。
でもなぜ、千変万化していくレディー・ガガを、私たちは「レディー・ガガ」という一人の人として認識できるのでしょうか?
目の前にいるのは、いつも別人のようなのに、なぜ統一した人物として受け取れるのでしょう? そう考えると、不思議です。
「ガガ」という音を聞いて、まず連想するのはどんなイメージでしょうか。「ガガ」という名前は、私たちの中にどんな偶像を創りあげているでしょうか。
その響きから、ゴツゴツした手触り、ノイズ、不協和音、衝撃、強さ、緊張感といった印象を抱くのは、私だけではないと思います。おそらく多くの人が、同じような印象を受け取っているのではないでしょうか。
有名な心理実験があります。
丸い線と、ギザギザの線で描いた二つの図を見せて、どちらが「ブーバ」で、どちらが「キキ」か、答えてもらうというものです。
「ブーバ」と「キキ」には、特に意味はありません。ただ音の「響き」があるだけです。
実験の結果、丸い線を「ブーバ」、ギザギザを「キキ」と回答する人がなんと98%に達しました。しかも面白いのは、「どの国のどの文化の人に聞いても、その回答はほとんど同じだった」という点です。これは心理学者ヴォルフガング・ケーラーによって報告された「ブーバ/キキ効果」という実験です。
理由は一つに特定できませんが、一説に、「ブーバ」という音を発音する際には、口を丸い形にし、「キキ」の場合は尖らす。人類が猿の時代から営々と、発声の時に使ってきた唇の形と、そこから出てくる音の組み合わせによって、共通の感じ方が現代人の中にも深く根付いているのではないか、と指摘されています。
つまり、人間は、「音によって共通のイメージを持つ」ということです。
次から次へと変身していっても、「レディー・ガガ」という名前の響きは、絶えず統一したイメージを発信し続ける。それは、常識との違和感、不協和音、システムを覆す過激さ、奇抜な個性。
世界中の人が、「ガガ」というノイズのような響きから、そうした個性を受け取っているとすれば。
このネーミングを選択した彼女に、「音」への天才的なひらめきを感じます。
大ヒット現象というものは、時に、そのコンセプトの「すべて」が名前の中に込められている場合があるのです。