東日本大震災に際し、中国は15名の救援チームの派遣や支援物資などの援助を行なった。だからと言って、彼の国の覇権への野望はいささかも衰えてはいない。激烈な外交の現場において、それとこれとは別問題なのだ。中国の狙いをジャーナリストの櫻井よしこ氏が解説する。
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5月21日に来日した温家宝首相は被災地を訪問し、被災者と膝を交えて交流しました。被災者の輪の中に入って「友好ムード」を演出したわけです。
昨年9月、温氏は、尖閣諸島周辺の日本領海を侵犯して海上保安庁に逮捕された船長の「即時・無条件」の釈放を要求し、「釈放しなければ中国はさらなる対抗措置をとる。すべての責任は日本側が負わなければならない」と我が国を恫喝しましたが、その時とはまるで別人のようです。
中国が日本に対して「微笑路線」に転じた理由のひとつは、震災で日本が世界から同情を集める中、強硬路線をとることは国際的に中国のイメージを損なうとの計算でしょう。
もう一つの理由は、米軍の存在感が増したことです。震災後、「トモダチ作戦」で行なわれた米軍と自衛隊の共同オペレーションは実戦さながらでした。日米関係は非常に緊密化しました。そんな状況下で強硬外交を続けることは、得策ではないと考えたのでしょう。彼らは「尖閣はいずれ奪い取れる」と考えており、今は巧みな柔軟戦術で日本を手中に収めることを考えているのです。
例えば中国政府が運用するソブリン・ファンドです。中国の巨額の貿易黒字と外貨準備高が強力な武器になります。中国政府は資金をさまざまな民間資金の形にして、あらゆる分野で日本を買い漁っていると言われています。
以前から指摘されている日本各地の山林や土地はもちろん、日本のあらゆる企業や技術に触手を伸ばし、買い叩き、買い占め、日本を侵食しているのです。
微笑外交の後ろでは、強硬姿勢も見せています。6月8~9日、中国の艦隊が宮古島と沖縄本島の間を通過し、軍事演習を行なっていたことがわかりました。
これに対し、日本政府は「公海上」のこととして黙認しましたが、昨年10月、韓国海軍の哨戒艦沈没事件を受けて米韓が黄海の「公海」上で合同軍事演習を行なおうとした時、中国は中国近海に外国の海軍が入り、演習をすることは、中国の「国民感情を害する」と猛反発しました。完全なダブルスタンダードです。日本も「国民感情を害する」と抗議すべきです。
また、中国は東日本大震災で大変な苦況にある日本に対し、レアアースのスムーズな輸出を約束しましたが、実際には輸出規制は強化されたままです。言葉と行動はまったく別物で、中国の本質は変わらないのです。
※SAPIO 2011年7月20日号