血液を固まらせない抗凝固薬の内服薬は、これまで「ワルファリン」1種類しかなかったが、約50年ぶりに新薬が承認された。新薬は服用後すぐに効果が現われる、納豆などの食品や他の薬品との相互作用による効果の変動が少ない、使用量が決められていてクリニックでも安全に使用できるといった利点がある。しかし、薬価が10倍以上と高く、新薬への移行は時間がかかりそうだ。
抗凝固薬は、震災時に問題になった脱水や、長時間同じ姿勢でいることで血栓ができるエコノミークラス症候群に代表される深部静脈血栓症や肺塞栓症、心房細動による血栓が脳の動脈に飛ぶ心原性脳塞栓症などの予防と治療に処方される。日本では1962年に承認されたワルファリン(商品名:ワーファリン)が唯一の抗凝固薬として長年使用されてきた。この薬はアンチトロンビン、プロテインC、プロテインSなど抗凝固因子の先天性欠損症の静脈血栓症予防にも使われている。
東京医科歯科大学医学部附属病院血液内科の小山高敏准教授に話を聞いた。
「血栓形成には、血小板と凝固因子が関与しています。動脈血栓は主に血小板によって、静脈血栓は主に凝固因子によって生じます。動脈血栓の予防にはアスピリンなどの抗血小板薬が有効で、静脈血栓予防には抗凝固薬のワルファリンが用いられてきました。しかし、高齢化に伴い心原性脳塞栓症も増えていることから抗凝固薬の需要の増加が見込まれ、約50年ぶりに新薬が承認されました」
今回承認された新薬「ダビガトラン(商品名:プラザキサ)」は、活性化された凝固因子IIa(トロンビン)を直接阻害する薬で、同様に活性化Xa因子をじかに阻害する「エドキサバン」(同:リクシアナ)、「リバロキサバン」も承認予定だ。いずれも直接凝固因子を抑制するので、飲んですぐに効果を発揮し、食品や薬品などとの相互作用がない。
ワルファリンは薬価が1錠10円程度で、大多数の患者が1日40円以下(保険適応では自己負担が3割)と金銭的負担が少ないが、ダビガトランは1日540円と10倍以上の高額である。「納豆を禁止されるだけなら安いほうがいい」という考えもあり、病状や患者の希望、医療機関に応じた使い分けがなされるものと思われる。(取材・構成/岩城レイ子)
※週刊ポスト2011年7月8日号