【書評】『水惑星の旅』(椎名誠著/新潮選書/1155円)
【評者】与那原恵(ノンフィクションライター)
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水は不公平だ、と私が感じたのは、沖縄が本土復帰する前年の夏に那覇の祖父母を訪ねたときだ。当時沖縄は慢性的な水不足に悩んでおり、一日数時間しか水が出ない。ところが、米軍基地内では米兵家族が芝生にたっぷりときれいな水を撒いていたのである。
今、世界は進行性の水不足に陥っている。すでに世界では清潔な水が手に入らない人が九億人おり、今後加速度的に増えていくと予測されている。水をめぐって国際紛争も起きている。
日本で生活していると、この深刻さに気づかない。多くの河川があり、自然環境に恵まれているからだ。たとえばシャワーを三分間流しっぱなしにすると、使用水量は約三十六リットルになるという。しかし東京の飲み水は群馬県から引っ張ってきており〈このことの脆弱性を行政も住民もあまり認識していない〉と著者は指摘する。電力と同じ構図なのだ。
「水の今」を知るために著者は旅に出た。現場を歩き、さまざまな人たちに話を聞き、多くの文献を読み、考えた。そのなかで、かつて旅した土地で見た光景、実感したことがリアリティのある考察につながっていく。
カンボジアの田舎で一瞬のスコールの雨水をコップに溜め飲む少年。オーストラリアのアボリジニや、アフリカのマサイ族の暮らし。タクラマカン砂漠では川が枯渇すると都市や文明が滅びることを目の当たりにし、中国・黄河流域では驚きの「ゴミ」を見た。スケールの大きな旅が「水惑星」の過去と現在を鮮やかに映しだす。
そして日本各地も歩き、水不足と戦った離島や、ダム建設による環境変化を聞き取っていく。水格差、水と行政、水と人体、水ビジネスなどテーマは広がり、さらに水問題の解決に取り組む人々にも出会う。淡水化装置、雨水利用、人工降雨などの最新技術をわかりやすく解説する。多くの文献を紹介しているのもありがたい。
水をめぐる不安を煽るのではなく、今、考えるべきこと、出来ることを訴える姿勢を貫いている。
※週刊ポスト2011年7月8日号