中国は日本近海ばかりでなく、南シナ海にも権益拡大の動きを強めている。これに対しベトナムやフィリピンはどう対抗しようとしているのか、ジャーナリストの櫻井よしこ氏がレポートする。
* * *
6月3~5日にシンガポールで開かれたアジア安全保障会議では、東南アジア諸国の中国に対する強い警戒心が鮮明になりました。
アジア安全保障会議の後、南シナ海情勢はますます緊張を増していますが、中国に対するベトナムやフィリピンの一連の対抗策は非常にしたたかであり、国防の観点から学ぶべき点が多いと言えます。
6月9日には、自国のEEZ(排他的経済水域)内で海底地質調査を行なっていたベトナムの探査船を、中国の漁船が妨害。さらに中国海軍は6月初旬に海南島周辺で大規模な軍事演習を実施しました。
対するベトナムの動きは速く、6月13日には中国が演習を展開したすぐ近くの海域で実弾演習を行ないました。
また、6月15日には中国の3000t級の大型巡視船「海巡31」が、広東省珠海市を出航して西沙諸島、南沙諸島経由でシンガポールに向かいましたが、フィリピンはわずか2日後の17日、フリゲート艦を南シナ海に急遽、派遣しています。
このようにベトナムやフィリピンは、南シナ海を狙う中国の動きにはすぐに反応して対抗策を打っています。両国の軍事力は巨大な中国とは比べものになりませんが、領土領海に関しては1ミリたりとも譲らない覚悟で、中国の脅威から自国を守ろうとしているのです。
両国は、自らの防衛力の強化にも注力しています。ベトナムは2011年の国防予算を前年比70%増、GDPの1.8%に相当する約26億ドルに増やしたと見られています。
最新の陸上攻撃巡航ミサイルを搭載可能なキロ級潜水艦をロシアから6隻購入し、艦船30~40隻を建造中です。北東部には38億ドルを投入した大規模な海軍基地を建設する計画もあります。
フィリピンも軍事予算を前年比同81%増の約20億ドルとし、米国から退役した巡視船を数隻購入。現在実効支配している南沙諸島の島々には防空レーダーを設置するなどの措置を急いでいます。
マレーシアやインドネシアも潜水艦や航空機を増やすなど、海と空の守りを強化しています。
しかし、中国はそれを上回る勢いで、2020年までに海洋監視要員を9000人から1万5000人に増やし、監視船を260隻から倍増させ、航空機も増強することを中国の英字紙「チャイナ・デイリー」が報じました。
中国は2040年までに西太平洋から米国の影響力を排除して支配を確立すること、そして米国を凌駕する大帝国を築くという大戦略を掲げています。南シナ海をめぐる強硬な態度は、一度掲げた目標は絶対に降ろさないとの強い意思の表われだと言えます。
※SAPIO 2011年7月20日号