東北地方の高速道路無料化に対応するため被災証明書を発行する自治体が増える中、早くも被災地に新たな災いが降り掛かっている。
6月24日夜の盛岡インターチェンジには、さまざまな地域のナンバーをつけた車による渋滞が発生。およそ1キロを超える列が料金支払い所に並んでいた。ETC利用者はほぼ皆無。料金所には被災証明書を提示するドライバーで溢れている。彼らの姿を眺めていると、どう見ても観光用に利用しているとしか思えない人物がチラホラ。
大畠章宏国土交通相が6月21日に「被災地復興を考えての制度導入。節度ある形で対応していただきたい」と牽制したのも、ここでは虚しく響く。岩手県陸前高田市で被災者向けのボランティア活動を行なっている男性は「3.11の地震から我々が何も学び取っていなかったことだけは分かりました」と力なく笑う。
当時、津波の被害から逃げようとしても道路が塞がり、逃げ遅れて地震の犠牲になった人たちが多くいたことは記憶に新しい。また、道路が封鎖されているために救援活動や支援活動の大きな妨げになったことはここで細々と述べるには及ばないだろう。
「明らかに観光気分で訪れている人が増えています。避難所を回り携帯電話のカメラで風景を撮影している人もいました。『がんばろう日本』なんてスローガンは、もはや皮肉にしか聞こえないですよ」と先の男性。
被災地の道路や橋などの復旧作業の指揮を執っている大手ゼネコンの社員も「物資がいきなり滞り始めた感じはあります」と話す。
「まず、物資を積んだトラックが来ない。来ないことには作業のしようもありませんので、それだけ復旧が延びるということです。国交省は何を考えて高速道路を無料化したんですかね。復旧を遅らせるためならなかなかいい案ではありますが」とチクリ。
一方、被災証明書を持ち“観光”を楽しんでいる側の意見も紹介しよう。
岩手県内のドライブスルーで話を聞いた男性は、東日本大震災の際に起きた停電1日で被災証明書の発行を受けたという。「だって、タダになるならもらわないと損でしょ。それに自分たちが遊ぶことで経済も回る訳だからとやかく言われる筋合いはない」。
最後に今も避難所で暮らす男性の言葉を紹介したい。
「津波で家を失った我々が、車なんてあるはずないでしょう。好きでこうなった訳じゃないのに、何だか見せ物のように扱われることに不快感を覚えます」。