節電のため室温設定は28度。しかしそこにいた社員たちは全員スーツにネクタイ姿である。名古屋から来た50歳代の男性は「見てるだけでも暑苦しいからさ、クールビズにしなよっていってやったの。でも『株主総会ですので、株主様に失礼のないようにこのような格好をしてます』だって。こんな日だけかっこつけても意味ねぇよ」と笑う。会場内に用意された休憩所ではお茶のサービスがあり、暑さのためか麦茶が飛ぶようになくなっていった。
6月28日。都内ホテルで行なわれた東京電力の株主総会には史上最多となる9309人の個人株主が押しかけた。
全株主93万3000人に対し、第1会場に用意された座席は2700名分。第2会場は2900名分、第3~5会場は合わせて800名分。合計席数は6400。単純計算で2900人の株主が座席難民に。
会場に入れなかった株主は当然立ち見。しかし6時間にも及んだ。廊下に出て座り込む者もおり、まさに事件は「場外」で起こっていた。
神奈川から来たという40歳代の女性株主は「パウダールームの休憩用の椅子にしか座れなかったわよ!」と怒り心頭。また質疑応答が許されたのは第1会場のみ。それ以外はモニターで総会の様子を見るだけ。
「そんなの意味ねぇだろッ!」と係員の静止を降りきって第1会場に押し入ろうとする男性から、「人殺し~!」と叫んで暴れ回り警備員に取り押さえられる中年女性、果ては開始15分で勝俣会長の議長解任緊急動議を提出する者まで。
肝心の株主の質問には、「調査中です」「善処します」と、当たり障りのない回答。震災前は2000円以上だった優良株を7分の1にまで暴落させながら、株主の総意をくみ取ろうとする姿勢はあったのだろうか。
「私たちに希望を与えてください!」と発言した男性に、勝俣恒久会長(71)はこう答えた。
「今のところ希望は見えません」
この言葉が現在の東電を表わしている。
※週刊ポスト2011年7月15日号