7月24日からいよいよ地デジ化完全移行が行われる。そもそもなぜ地デジ化が必要なのか。総務省と新聞・テレビ局がその理由としてきたのが、「電波の有効利用」「双方向通信」「電波障害の軽減」「高画質・高音質」の4点だ。これらによって地デジ化は国民の利益になると喧伝してきたわけだが、いずれもデタラメである。まずは「有効利用」の嘘。
使用する周波数帯がテレビと重なる携帯電話の普及によって、電波帯は飽和状態になりつつある。そこで、帯域圧縮技術(電波帯の幅を狭くしても映像の質を落とさない伝送技術)を使えるデジタル波になれば、電波の有効利用になり過密が解消できるというわけだ。しかし、テレビ局には地デジ化で余裕ができる電波帯を開放する気は最初からない。
たとえば、通信衛星や光ファイバーを利用することによってすでに不用になっている周波数帯があるが、地デジ化後もそれらは開放されることはなくテレビ局が占拠し続ける。本来なら、空いた帯域を携帯電話事業者などに配分する「電波オークション制度」(※下記参照)が導入されるべきだが、テレビ局や総務省らによって潰された。
次いで「双方向通信」の嘘。朝日放送の元経営企画室局長で、大阪国際大学教授の長澤彰彦氏(地域情報論)がいう。
「クイズ番組に参加したり、ドラマで女優が着たのと同じ服をリモコンボタンひとつで購入できたりと、地デジ化によって視聴者の番組参加が可能となると期待されていました。しかし、地デジ化されてもこの機能を使うにはインターネット回線や電話回線の接続が必要で、ほとんどの家庭でこのメリットは活かされていない」
それなら最初からネットでやればいいだけだ。
「電波障害」はむしろ増えている。アナログからデジタルへの切り替えによってアンテナ設置工事の現場では新たな電波障害が次々に起きていることは6月24日号で詳報した。
「高画質・高音質化」はその通りなのだが、果たして今のテレビで高画質、高音質を求められる番組がどれだけあるだろうか。民放キー局幹部はこう言い切った。
「視聴者にとっての地デジ化によるメリットを強いて挙げれば、紀行番組などで自然映像がより美しく見られる点くらいでしょう」
悲しいことに、高画質化して大好きな女優のシワばかり見せられて閉口するファンは少なくないだろう。そんな程度の変化なのに、国民は地デジ対応テレビやチューナー、アンテナ設置費用などの負担を強いられているのである。
※電波オークション/公共の財産である電波帯を使用する免許を競売、入札によって取得する制度。米国や欧州など多くの先進国で導入され政府の大きな収入源になっている。しかし、日本では民主党政権下で導入が検討されたが見送られた。依然として電波帯は政府による配給制が取られ、テレビ局などにタダ同然で割り当てられている。
※週刊ポスト2011年7月15日号