4月に起きた焼き肉チェーン「焼肉酒家えびす」で4名が亡くなる集団食中毒事件。「えびす」の運営会社「フーズ・フォーラス」(本社・石川県金沢市)は営業継続を断念し、会社の清算を決めた。 事件直後、報道陣の前で突然土下座して謝罪した勘坂康弘・社長(42)が2か月の沈黙を破って口を開いた。
――事業を継続するという選択肢はなかったのか。
「遺族や被害者の方々への賠償の継続性を考えると、営業を再開して自社の利益のなかからサポートするのが最も有効ではないかと思い、営業再開に向け努力しました。
しかし、自治体や銀行の反対、なによりお客様の理解を得られないのではないかということで清算の道を選んだ」
――賠償金額はいくらになる?
「現段階ではわかりません。皆様と話をして、可能な限りで精一杯のことをやるつもりです。まず、石川県と神奈川県にある20店舗のすべてを営業譲渡して、その譲渡代金を充てます。また、事業が滞った時に支払われる限度額1億円の営業損害保険金があります。
さらに、現在は取引銀行に凍結されていますが、会社と個人名義で合わせて定期預金が約2億円ある。この預金は会社の借入金と相殺されるものですが、銀行と交渉して、できる限り(賠償金に充てられるように)するつもりです」
――そもそも、焼き肉チェーンを始めたのはなぜか。
「最初から飲食業と決めていたわけではありません。リスクを取って、自分の手で人生を切り拓く仕事がしたかった。たまたまそれが焼き肉だっただけです」
――自分の経営者人生を振り返って何を思うか。
「まだ中小企業のレベルでしたし、“経営者人生”なんておこがましい……。何度もピンチがありましたが、経営の原理原則を守れば、なんとか乗り越えられるという信念はありました」
――しかし、今回は乗り越えられなかった。
「ゼロから事業を立ち上げたので、基盤を築くのに時間がかかりました。14年で20店舗というのは、コツコツやってきた成果だと思っています。ここからはエンジン全開に事業展開しようという矢先の事件でした。でも、すべての責任が経営者に降りかかってくることも経営の原理原則です」
――まだ42歳と若い。これからどうするつもりか。
「先のことはまったく考えられません。とにかく今は賠償の問題を解決したい。そのための費用を捻出することが私の最優先課題です」
●聞き手/伊藤博敏(ジャーナリスト)
※週刊ポスト2011年7月15日号