軍事機密から個人情報まで、世界で繰り広げられるサイバー戦争は熾烈を極める一方だが、果たして肝心の日本の現状はどうなっているのか。中国、北朝鮮がサイバー戦争で虎視眈々と日本を狙う中、実は日本だけが丸裸の状態になっている。軍事ジャーナリストの井上和彦氏が解説する。
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サイバー攻撃は、その対象が日本のように高度にIT化された社会であればあるほど、有効だ。さらに日本の場合は、政府機関・機能の民間通信網や公共交通機関への依存度が高い。となれば、通信施設や鉄道・空港のコンピュータがサイバー攻撃に狙われる可能性は高くなる。
なぜなら、一度の攻撃によって日本国中を大混乱に陥れることができるだけでなく、日本の防衛体制に大打撃を与えることも可能となるからだ。
例えば、一部の地域が中国や北朝鮮から攻撃を受けている時に、テレビやラジオの放送が停止し、インターネットや電話が使えなくなれば、政府も自衛官も状況を把握できない。
また、仮に政府が状況を的確に把握できたとしても、通信インフラが攻撃を受ければ、自衛官への連絡が取れなくなる。自衛官は、個々が無線機を携帯しているわけではなく、全員が民間の携帯電話で交信している。防衛省は、自衛隊高官に民生品の携帯電話を支給しており、個人への連絡手段は民間の通信インフラに依存しているのが現状である。
同様に狙われる可能性が高いのが交通インフラだ。
地方の駐屯地や基地は、その近傍に官舎もある。だが、東京・市谷に所在する防衛省に勤務する隊員は、公共交通機関で1時間以上かかる郊外に住んでいる者が多い。マイカー通勤する隊員はおらず、したがって、サイバー攻撃によって公共交通機関が麻痺状態となれば、肝心の隊員が防衛省にたどり着くことすら困難となるのだ。
仮に、強引にマイカー通勤をしようとしても、信号機を制御する交通システムがサイバー攻撃を受ければ、大渋滞を巻き起こし、身動きがとれなくなるだろう。
アメリカの場合、ペンタゴンまで片道1時間もかかる場所に住んでいる指揮官クラスは少ないという。居住する地区には一定の距離の制限がかけられているからだ。
さらに、主要な指揮官への内線・専用回線がきちんと確保されている。日本は空いている官舎へ順次入居させるため、遠隔地から通勤する佐官級もかなりいる。自衛隊にも専用回線はあるが、対象とする指揮官の数の規模が大きく異なるという。
日本の場合はこのように、防衛を担う自衛官が、サイバー攻撃の二次被害者となることで、防衛体制に致命的な影響が出るというわけだ。
※SAPIO 2011年7月20日号