政府は先月、東京電力・福島第一原子力発電所事故に伴う東電の賠償を支援するための「原子力損害賠償支援機構法案」を国会へ提出した。原発を持たない沖縄電力を除く全国の9電力会社が支払う負担金を基に機構を新設し、東電への資金交付や社債・株式の引き受けを通じて巨額の賠償負担を背負う東電の資金繰りを支える、という仕掛けである。
だが、この法案にはいくつもの看過できない問題がある。そう指摘するのは大前研一氏だ。以下は大前氏の解説である。
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まず、政府が機構に対していつでも換金できる交付国債を交付する形で「公的資金」を投入し、機構自身も「政府保証付き」の機構債を発行して資金調達できる点だ。この法案は「避難住民や農漁業者に対する賠償」という誰も反論できない大義名分の下にすんなり閣議決定されたが、本来なら一旦つぶすべき東電を税金で丸ごと延命させるためのいかさまのスキームであり、事実上の“東電救済法案”にほかならない。
それはまさに現在の9電力会社による地域別独占体制を維持したい経済産業省と政治家の思惑通りといえる。経産省にとって電力業界は、天下り先などの極めて大きな既得権益だ。
そして、電力利権、原子力利権の甘い汁を吸ってきた政治家たち、とくに自民党は、いつも景気対策で電力会社に不要不急の設備投資をさせて予算以外の景気刺激策にし、その余禄を得てきた。原発が立地している地域の自民党国会議員には、地元の有力者への口利きで“キックバック”をもらってきた者も多い。
彼らは住民対策費や各種の特別会計などカネが潤沢な原子力産業に巣くう利権屋であり、その利権を温存しようとするのがこの法案なのである。そうしたとんでもない欺瞞を指摘することなく、政府の発表を垂れ流している新聞・テレビなど大マスコミの怠慢には呆れるばかりだ。
この法案が成立すれば、国民負担が際限なく膨らむことになる。なぜなら、機構が東電に資金を貸し付けるというが、手続き上は機構ではなく銀行が貸し付け、それを政府が保証する仕組みになっているからだ。その結果、銀行は求められるがままに貸し出すことになるだろう。つまり、とめどなく国民の税金が投入される全く節操のない仕組みなのである。
※週刊ポスト2011年7月15日号