「震災で3メートルの津波に襲われ、工場や倉庫のある1階は水没して全滅しました。瓦礫は片づけても片づけてもきれいにならず、“ここまでかき回さなくてもいいのに…”と思ったほどです」
岩手県釜石市で明治35年から営業を続けてきた老舗、藤勇醸造の小山和宏専務はいう。藤勇醸造の代表的商品である『富士醤油<濃口>』は、まろやかな甘みと濃厚な味わいが多くのファンに愛されてきたが、今回の震災で甚大な被害を被った。
「1リットルのしょうゆが数万本、水没して売り物にならなくなりました。物資も不足していたので、店の前に並べて無料で配布したんです。味噌は50トン廃棄しました」(小山さん)
従業員11人は奇跡的に全員無事だったが、波をかぶりながら車で逃げた人もおり、5人は家を流されて避難所生活を余儀なくされた。そんな状況のなかで、業務再開のきっかけを与えてくれたのは、顧客から届いた応援のメッセージだったという。
「当初、停電していてインターネットさえ見ることができませんでした。2週間後にやっとパソコンを開いたら、100通ほどの励ましのメールが届いていて、驚きと同時に一気に勇気がわいてきたんです」(小山さん)
震災後すぐ、顧客から義援金や毛布も届き、涙が出たという。ガラスやサッシが不足するなか、5月半ばに建物を修理し、6月1日から製造を再開した。
※女性セブン2011年7月21日号