経済的な側面から見れば、人生のポートフォリオは、自ら働いてお金を稼ぐ「人的資本」と不動産や預貯金などの「金融資本」で構成されている。しかし、現代日本人の金融資本は、その大半を不動産が占めているのが現状だ。資産運用の観点から見たマイホーム購入のリスクについて、資産運用や人生設計についての多数の著書で知られる作家・橘玲氏が解説する。
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戦後の日本社会において、人生設計の最適なポートフォリオは、大きな会社に就職し、住宅ローンを借りてマイホームを購入し、定年まで勤め上げた後は退職金と年金で悠々自適の生活を送ることだとされてきた。
ところが、どうだろう。
日本人の資産運用は預貯金が大半だといわれるが、実際には、その「金融資本」のほとんどは不動産に集中している。年収の何倍にも及ぶ住宅ローンを組んでマイホームを買うことは、レバレッジ(てこの原理)をかけて不動産に投資するのと同じだから、これは要するに不動産の信用取引だ。
バブルが崩壊した1990年代以降、地価の下落傾向に歯止めはかかっていない。それにもかかわらず、多くの日本人は「土地神話」を信じて、不動産を所有することのリスクから目をそむけてきた。
経済学的に考えれば、持ち家と賃貸の違いは不動産投資のリスクを負うかどうかだ。今回の震災では家ごと津波で流されたり、原発からの放射能汚染で避難区域に指定されたり、首都圏・湾岸エリアの埋立地では液状化に見舞われるなど、想像すらできないことが現実のものとなった。余震のたびに大きく揺れるオール電化の超高層マンションが敬遠され、価値が大幅に下落しているともいう。今回の震災は、マイホームという不動産投資のリスクを顕在化させたのだ。
ところが賃貸なら、こうした不動産のリスクをすべて大家に転嫁できる。地震や津波で家がなくなっても、契約を打ち切って別のところに住み替えればいいだけだ。
これに対してマイホームは、資産運用の観点から見れば、卵をひとつのカゴに盛っているようなものだ。不動産は価格変動の大きい投資商品で、それにリスク耐性の低い個人が金融資産のすべてを投じ、さらには住宅ローンでレバレッジまでかけて投資リスクを極大化している。それが今でも、「安全で有利」な資産運用だと信じられているのだ。
※マネーポスト2011年7月号