昨年6月の北京での観劇から公の場に姿を現わしておらず、重体説が流れている江沢民・前国家主席だが、その影響力は衰えていなかったようだ。チャイナウォッチャーで国際教養大学教授のウィリー・ラム氏がレポートする。
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北京の中国筋が明らかにしたところによると、北朝鮮の金正日総書記が5月下旬に突然、訪中した際、江氏の故郷である江蘇省揚州市まで足を延ばしたのは、体調がすぐれない江氏を見舞うためだったという。
入院説の絶えなかった江氏だが、この春は体調が回復しており、金総書記の見舞いの申し出にも応じることができたようである。江氏側は盛大な晩餐会を開き、短時間だが、江氏も出席して金総書記を歓待したというのだ。
金総書記は自身も2008年夏に脳の血管系の大病を患って一時は命の危険も懸念されたが、驚異的に回復した経験を持つだけに、江氏の闘病生活を他人事として済ませることができなかったというのだが、それはあくまでも表向きの理由。
金総書記が経由地の吉林省長春市から揚州市までの2000kmを29時間かけてノンストップで駆け抜けた本当の理由は、中国で最も権力を握っている一人が江氏であることを金総書記が知っているからだ。
今年の8月17日に85歳になる江氏は引退したとはいえ、現在も北京の中央軍事委員会本部のワンフロアに執務室を構えているほか、北京中心部や上海、揚州に宮殿のような邸宅を保持している。
特に、中央軍事委の執務室では、軍の最高幹部を呼んで重要な指示を発していたほか、昨年までは地方視察も行なっていた。
しかし、江氏の活動が報道されることはほとんどない。最高指導者である胡錦濤主席が江氏の動向に神経質になっており、中国の報道機関が自主規制しているためだ。
※SAPIO 2011年7月20日号