おぐにあやこ氏は1966年大阪生まれ。元毎日新聞記者。夫の転勤を機に退社し、2007年夏より夫、小学生の息子と共にワシントンDC郊外に在住。著者に『ベイビーパッカーでいこう!』や週刊ポスト連載をまとめた『アメリカなう。』などがある。おぐに氏が、ドラマでおなじみのアメリカの「ER(=緊急外来)事情」について解説する。
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先日、アメリカで初めてER、つまり緊急外来(Emergency Room)に駆け込んだ。理由は夫の急性副鼻腔炎。処方された痛み止めが効かない! と家庭医に電話すると、「すぐERで頭部CTスキャンを撮ってもらえ」となったのだ。
夫は激痛で動けない。日本なら救急車を呼ぶ場面だけど、アメリカの救急車は呼ぶだけで数百ドル。おまけに家族の同乗は許されない。「もれなくパトカーと消防車がついてくる」なんて噂もあって(ウソよね?)、自家用車で行くことにした。
人気テレビドラマ『ER』では、重病人が次々運び込まれ、廊下にはストレッチャーがひしめき、医師と患者の怒声が飛び交い、あちこちで緊急手術が行なわれてたっけ。ところが、ワシントンDC郊外の平日朝のERは、なぜか、しーん。順番待ちも10人程度。なんだこれなら1時間で終わりそう、と拍子抜けした。
でも甘かった~。看護師さんが症状を聞いてくれた後は、完全放置。4時間後、ようやく医者風の男がやってきて、ああ、やっと治療が始まる! と思いきや、男はクレジットカードを寄越せという。お代は350ドル也……って、あの~、治療費、前払いなんですか?
実はこれ、ERの使用料。治療費は後日、別途請求されるんだって。ニューヨークでは、「運び込まれただけで700ドル(治療費別)」のERもあるらしい。ちょっと~、お金取る前に治療してよ!
そういえば、私の友人は急な発熱にインフルエンザを恐れ、夜中にERに駆け込んだら、6時間待たされ、あれこれ検査された挙げ句、診断は「インフルエンザじゃありません」。後日の請求額は1500ドルだったって! 血液検査は数百ドル、CT撮影で5000ドル、うっかり入院しようものなら10万ドルをあっさり超える、と聞いたこともある。
ERは、患者の医療保険や支払い能力の有無を理由に治療を拒否できない。だから踏み倒されるリスクを上乗せして、治療費は恐ろしく高額となる。アメリカの医療保険を持たない我が家の場合、日本にある夫の勤務先の健康保険組合が、7割を補助してくれたとしても、本人負担分がいったいいくらになるのやら……。
※週刊ポスト2011年7月15日号
(「ニッポン あ・ちゃ・ちゃ」第152回より抜粋)