被災し、「廃業」の瀬戸際にまで立たされた企業を復活へと向かわせたのは、「顧客の気持ちに応えたい」という思いだった。
「世の中の人が喜ぶいちばんの酒になる」ことを願って、大正7年の創業以来、清酒『世嬉の一』ブランドを中心に多くの酒をつくってきた岩手県一関市にある「世嬉の一酒造」。
今回の震災で、建物は改修に1億円以上の費用がかかる被害を受けたが、応急処置を施して4月21日から営業を再開した。
「石蔵の天井は抜けて、ビール蔵にも大きな亀裂がはいり、2.5tのビールタンクが斜めに傾きました。地震があってから、停電が続き、物流も止まってジワジワと首を絞められるような気持ちでした。3月は前年比85%減の売り上げで収入はないのに、支払いの請求書はどんどん届く。“倒産”の二文字が頭をよぎりました」(佐藤航常務)
震災1週間後には社長で父の晄僖さんが過労で倒れ、寝込んでしまった。その後、仕事に復帰してからも激しいめまいを感じて2週間入院。社員も15人いるうちの3人が入院してしまった。心も体も、経済的にもどん底に落とされたが、知人や同級生からの支援に救われたという。
「お得意様が、“品物はいつでもいいけど、先に支払いするから”と前入金で大量のお酒を注文してくれたときは、涙が出るほど感謝しました」(佐藤常務)
※女性セブン2011年7月21日号