南シナ海で中国とベトナムの領有権争いが激化している。6月、ベトナムは実弾軍事演習を実施。対する中国は「海洋権益と主権維持」のための監視活動を行なうとして、巡視船を南シナ海に送った。近年、中国の海洋戦略をめぐる近隣諸国との摩擦は絶えないが、それは中国が国際ルールを無視し、独自の解釈を打ち出していることに起因する。中国の近海制覇への動きを産経新聞ワシントン駐在編集特別委員・古森義久氏がレポートする。
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6月に入って南シナ海での緊迫がまたまたアジアの国際関係を揺るがせた。シンガポールで開かれた「アジア安全保障会議」でベトナムの国防相が、自国の資源探査船が中国の巡視船に調査ケーブルを切断されたと抗議したのだ。
フィリピンの国防相も、南沙諸島近くで中国が不当に新たな基地らしい施設を建設し始めたと、これまた抗議した。いずれも中国の海洋での攻勢である。
では中国は自国の海洋戦略の野心的な目的を、どのような手段で達成しようというのか。アメリカ海軍大学校の中国海洋研究所、ピーター・ダットン所長はその手段として3つをあげた。
「第1はまず軍事力増強で制海権を握り、紛争を中国の望む形で解決しようという手段です。この手段は単に海軍力だけでなく、衛星での情報収集、サイバー攻撃の能力強化に加え、ミサイルの増強を含み、多次元にわたります。第2は中国が近海と呼ぶ海域での管轄権の強化を法的次元で進めることです。特に南シナ海や東シナ海で、標的とする島嶼や海域の領有主張を強めるためにまず国内法を変えて、その主張に合法性を与えるような措置を取ります。そのうえで今度は国際法を中国独自の異様な方法で解釈し、『合法性』を強めようとするのです。そして第3はそれら管轄権を実際に物理的な方法で強化していくことです」
中国は、つまり特定の島や海域をまず国内法で領土、領海扱いをして、それから国際法を勝手に解釈して、その領有の主張に法的根拠の装いを与え、最後にその権利を物理的手段で執行していく、というのである。これぞまさに唯我独尊のアナクロニズム大中華思想だといえよう。こんな方法が通用するならば、紛争の相手とされた諸国はたまらない。
※SAPIO 2011年7月20日号