農産物に関する様々な規制を見ると、この国の農業は役所や農協によって“おいしい作物”を作らせないようにされているとしか思えない。さらにその規制が農業の真の再生を阻んでいるのである。元行政改革担当大臣の補佐官で政策工房社長の原英史氏が憤る。
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「規格外」の野菜がちょっとしたブームになっている。スーパーではまずお目にかからないが、専門の宅配や通販もある。ねじ曲がっていて形は悪いが、値段は割安で、味はかえっておいしかったりする。
農産物の「規格」とは、各自治体や農協が、出荷に際して設けている基準のことだ。農家が農協経由で出荷する際は、必ずこの規格に従う。内容は地域によりまちまちだが、例えばきゅうりなら、「A級品は曲がりが1.5センチメートル以内」などの定めがあり、A級品以外は、まず市場に出回らない。だから、街中で目にするきゅうりは、みんな真っ直ぐなのだ。
各地の「規格」が似たり寄ったりであることには、理由がある。昭和40年代に、農林省(現・農林水産省)が蚕糸園芸局長通達などの形で、全国の標準規格を定めたからだ。例えば、「きゅうりの標準規格」を見ると、
・品位基準として、「A級品は曲がりが2 センチメートル以内、B 級品は曲がり4 センチメートル以内」
・大小基準として、短形種の場合は「L:21センチメートル以上23センチメートル未満、M:19センチメートル以上21センチメートル未満、S:16センチメートル以上19センチメートル未満」
などと書いてある。「標準規格」は2002年になって廃止されたが、これをモデルに、各地の「規格」が出来上がった。「標準規格」は、きゅうり以外にも、たまねぎ、レタス、キャベツ、トマトなどで作られた。
いずれにも共通するのは、「大きさ」と「カタチ」に注目していることで、「おいしさ」や栄養は関係ない。
本当は、野菜は作り方によって味が違う。だが、農家が農協経由で出荷する場合、「大きさ」と「カタチ」が優先される。「規格」に合えば引き取ってもらえるが、「規格外」ならば事実上、引き取りを拒否される。いくら「おいしさには自信がある」と抗弁しても、関係ないわけだ。
そして、農協で引き取られた野菜は、他の農家の野菜とごちゃ混ぜにされ、卸売市場に引き取られていく。この仕組みでは、「おいしさ」を追求しようという意欲が損なわれても無理はない。
※SAPIO 2011年7月20日号