自らが原発作業員として働くという前代未聞の潜入レポートを行うのはライターの鈴木智彦氏。だが、原発事故に立ち向かう作業員たちは圧倒的に情報が足りていないのだという。以下は鈴木氏によるレポートだ。
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いわき湯本近辺を宿にしている作業員に密着しているうち、分かってきたことがある。作業員の多くは放射能に関する専門的な知識を持たず、毎日のニュースすら知ることができない情報弱者という事実である。
「旅館のフロントに新聞は置いてあるけど、毎日疲れちゃって読む気がしない。テレビのニュースを録画しておきたいけど、部屋にビデオなんてない。インターネット? 携帯ならあるけど、パソコンなんて持ってきても無意味だ。ビジネスホテルならともかく温泉旅館にLANケーブルなんてない。元々みんな肉体労働してんだし、無線でつなぐほどのマニアはいない」(協力企業の現場監督)
実際、今月初め、四号機の使用済み燃料プールの温度が上昇し、作業員に避難命令が出される寸前という事態が起こった。だが、作業員の多くは深刻な事態だと認識していなかった。
「他の部署がなにやってんのかさっぱりわからないし、知ったところでどうにもならない。あんまり考えすぎると作業が進まないからな。工程表通りに作業が進むわけがないけど、最小限の遅れで済ませたいと、誰もが思ってる。晩発性の癌? そんなこと考えたってしかたない。なるようにしかなんねぇよ」(いわき湯本を宿にしている協力会社社員)
自分がどれほど危険な作業をしているか漠然としか理解していない上、新たな情報を得ることもできず、慣れが恐怖心を鈍化させるのだろう。誰に強要されたわけでもなく、自分の意思で現場に入っているのだから、自業自得・自己責任と結論づけるのは簡単だ。が、現場の過酷さを考えれば、作業後、または休日を使い、情報を得るための努力を強いるのは酷である。
※週刊ポスト2011年7月22・29日号