経済的な側面から見れば、人生のポートフォリオは、自ら働いてお金を稼ぐ「人的資本」と不動産や預貯金などの「金融資本」で構成されている。多くの日本人はマイホームを購入し、金融資本を不動産に一極集中させた極めてハイリスクなものとなっている。では、人的資本はどうか? 資産運用や人生設計についての多数の著書で知られる作家・橘玲氏が解説する。
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一方の「人的資本」でもリスクの極大化が生じている。
大卒の日本人は、その大半がサラリーマンとして会社や官公庁に就職し、終身雇用の下、定年まで勤務する。しかしこれも投資の観点でいえば、自分が持っている「人的資本」を会社というひとつの銘柄に集中投資していることにほかならない。その企業が倒産したり、今回のように会社や工場ごと津波に流されてしまえば、たちまち人的資本はゼロになってしまう。
大卒で大手企業に入社し、定年まで勤めたときの総収入は約3億円といわれている(企業年金や社宅なども加えると5億円との試算もある)。それがすべて失われてしまうのだから、そのダメージは計りしれないものがある。
サラリーマンなら誰でも身に染みて知っているように、40代を過ぎて中間管理職にでもなれば、転職の可能性はほとんどなくなってしまう。倒産やリストラで職を失うと、あとは非正規の職場で働くか、そこでも雇ってもらえなければコンビニのレジ打ちか道路工事の交通整理くらいしか残っていない。
このように、多くの日本人は人的資本をひとつの会社に投資し、それと同時に金融資本を住宅ローンでレバレッジまでかけて、マイホームという不動産に投資してきた。リスクを嫌うといわれる日本人が、実は非常にハイリスクな人生のポートフォリオを組んでいるのだ。
もちろん、リスクが高い反面、うまくいったときのリターンも大きい。高度経済成長期に日本人が急速に豊かになれたのは、このポートフォリオから効率的に富が生み出されたからだ。大企業に就職すれば倒産の心配はなく、住宅価格も右肩上がりで上昇していた。
しかし、バブルが崩壊し日本経済が低成長時代に入ったことで経済環境は大きく変わってしまった。それでも多くの日本人は新しい人生設計を見つけることができず、古いポートフォリオを抱え込んだままでいる。そのリスクが、震災によってはじめて顕在化したのだ。
※マネーポスト2011年7月号