現在、全国の球児たちが夏の甲子園を目指して戦っているが、一方では高校野球に舞い戻り監督として采配を振るっている元プロ野球選手もいる。阪神~ダイエー~中日と渡り歩き、1991年には盗塁王にも輝いた大野久氏(50)もその1人。スポーツジャーナリスト・古内義明氏が大野氏を取材した。
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現在、茨城県の東洋大牛久高校の監督を務めている大野によれば、この7年間は葛藤の日々だったという。
「例えば、投手のモーションをどう盗むか。実際に生徒に『あそこを見ていてごらん、こんなクセが出ているだろう』と、私が読んだクセを教えてみせるんです。ただ、技術のない子に教えすぎると応用が効かなくなる。だからこそ実戦的な練習を繰り返すしかない」
キャッチボールもまともにできず、一度も試合に出ることもなく卒業する子供もいる。そうした子供に対して、元プロ野球選手としてできることは、まず「野球を好きになってもらうこと」だった。
そこで大野は「ホームランはこうやって打つんだ」と、子供たちの前で実際に打って見せた。ミーティングでは、プロ野球時代の話をし、実名を挙げてエピソードを話す。現代っ子らしく、子供たちはインターネットの動画で話に出てきた選手をチェックするという。
「子供たちが『大野久で検索したらヒットします!』って。ただ、その映像が大したバッティングしていないんですよ(笑い)」
就任した当時は元日以外364日練習だった。だが、高校野球の世界に飛び込んだことに後悔はない。
「高校野球の監督になってわかりました。毎日泥まみれになって、監督には怒鳴られ、それでも純粋に野球をしている子供たちの姿はカッコいいと。プロ野球選手でも絶対にかないません」
※週刊ポスト2011年7月15日号