おぐにあやこ氏は1966年大阪生まれ。元毎日新聞記者。夫の転勤を機に退社し、2007年夏より夫、小学生の息子と共にワシントンDC郊外に在住。著者に『ベイビーパッカーでいこう!』や週刊ポスト連載をまとめた『アメリカなう。』などがある。おぐに氏が、日本とアメリカにおける「泣けるテレビコマーシャル」の違いについて解説する。
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息子が「アメリカの『泣けるCM』を探してるんだよ」という。日本の友人から、「学校の調べ物で『泣けるテレビコマーシャル』を探してます。アメリカにもありますか?」とメールが届いたらしい。
アメリカで「泣けるCM」ねえ。日本では毎年のように、「泣けた」「感動した」などと話題沸騰し、全国ニュースになっちゃうようなCMが登場するけれど、アメリカで「泣けるCM」がニュースになったことなんか、あったかなぁ。
アメリカのテレビCMは、イメージ重視の日本のCMに比べ、より具体的で、即物的で、データ好きだ。「〇%の歯科医が推奨している」とか「今なら△%もお得」とか「利用者の□%が満足している」とか。視聴者の話題をさらうのも、「泣ける」路線よりむしろ、奇抜でユニークなアイデアとか、強烈にバカバカしいとか、そういうCMが多い。
しばらくして、息子が「これ、どうかな?」と、YouTubeの映像を見せにきた。荘厳で重々しいBGM。制服を着たアメリカの若者が自らを鍛え、世界の人々を助け、祖国を守ろうとする、イメージ映像の数々……な~るほど、米軍のリクルートCMかっ! 確かに、米軍CMは毎回、感動路線で攻めてくるもんね。
ふと思いついて、カンヌ国際広告賞金賞を受賞した話題の「九州新幹線全線開通ウェーブCM」を息子に見せてみた。「日本人が感動した理由、あんたにわかる?」と。日本では東日本大震災後に放映が自粛された後も、「泣けた」「元気をもらえた」などの声が殺到し、DVDが発売されるに至ったらしいが……。
案の定、息子は「全然わかんないよ」。ちなみにアメリカ暮らしの長い友人に見せたら「ゲイの権利を訴えるパレードみたいだな~」と驚かれた。九州7県の象徴として選ばれたレインボーカラーなんだけど、欧米では、セクシャルマイノリティーの象徴(こちらは6色)だものね。
※週刊ポスト2011年7月22・29日号