【書評】『運命の人 四』(山崎豊子/文春文庫/670円)
【評者】大塚英志(まんが原作者)
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反原発にどうしても乗れない。ついこの間までそう口にすればサヨクとののしられたはずだし、共産党が震災前に今回の事態を想定した質問をしてもその時点では一行も報じなかったのに。それがちょっと放射能飛んできたぐらいで、そういうリスク込みで自民党の原子力政策支持してきたんだろうに、有権者も大半のメディアも。
何年か前、イラクへの自衛隊派兵差し止めの裁判やっていた時も「湾岸戦争の時に劣化ウラン弾使われて今回もその可能性がある。子供の被曝リスクが高い」と説明したらあちこちから冷笑されたけど、じゃあ「子供たちを救え」って「日本人限定」って入れとけよ。
広島・長崎の原爆と原発は同じ核だから反原発って大江健三郎が言うならともかく村上春樹かよ。どいつもこいつも話違うじゃん。リスクわかって原発使ってきたんだから、あれほど大好きだった「自己責任」ってフレーズの出番と違うのか。
「サヨク」にしたって原発の是非を国民投票でって、国民投票一回やったら憲法改定までまっしぐらだから国民投票そのものがNGじゃなかったのかよ。もし「原発」で顕わになった問題をフツーに考えるなら地方に交付税や利権と引き換えに都市部のリスクを負わせる構図、「放射能」のリスクを言うなら米軍が当然持ち込んでいるよねと誰もが思っている「核」の問題でしょう。つまり普天間へのスタンスに当然直結するのにしない。村上春樹も米軍出てけっていえば筋は通るのに。
で、沖縄返還当時の機密文書を報道した新聞記者をモデルにしたこの小説。四巻でトーンが一挙に変わる。四巻だけで一つの小説だとさえ思った。この人が書きたかったのは沖縄の戦時下の悲劇だったのか、ということがはっきりとわかる。早い文庫化を自ら願い出たとある「文庫版のためのあとがき」でも沖縄戦や基地のことしか書いていない。
そうか山崎豊子も戦争を経験した戦後文学者だったのだ、と改めて思う。その世代の筋の通し方には頭を垂れるしかない。
※週刊ポスト2011年7月22・29日号